投稿日 : 2021.11.26

【東京・御茶ノ水/Donato】昭和の空間から放たれる次世代のジャズ喫茶

取材・文/富山英三郎  撮影/高瀬竜弥

Donatoの写真1、ドナートの写真1
いつか常連になりたいお店 #64

「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回は2021年11月11日にオープンしたジャズ喫茶『Donato(ドナート)』を訪問。昭和レトロな喫茶店を受け継ぎながらも、次世代の快適さが提供されているお店でした。

SNSをきっかけに昭和60年オープンの店を受け継いだ

2021年11月にオープンしたばかりのジャズ喫茶『Donato(ドナート)』は、新御茶ノ水駅(千代田線)から徒歩約2分、小川町駅(都営新宿線)、淡路町駅(丸の内線)、御茶の水駅(JR)から徒歩約4~6分の場所に位置している。新しいお店ではあるが、小さな路地に面した昭和の喫茶店という風情がある。

Donatoの写真2、ドナートの写真2

「今年5月に働いていたレコード屋を辞めて、さてどうしようかと思っていたときに、彼女がSNSでこの場所を見つけたんです。純喫茶家具などを販売している村田商會さんが、居抜きで引き継げる人をInstagramで募集していて」。そう語るのは、1994年生まれの加藤寛之さん。

投稿を見つけた日にはメールを送り、翌日にはもう話を聞きに行っていたという。

「以前から、いつかお店をやりたいと彼女は話していて。でも、一番大きな動機はお互いがこの場所を気に入ったから。やるならジャズ喫茶がいいなと思ったんです」(加藤さん)

Donatoの写真3、ドナートの写真3

神奈川県葉山町出身の加藤さんだが、親の友人が神保町で古本屋さんをしていたこともあり小さい頃から馴染みのエリアだったという。

「このへんはよく歩いていました。でも、ここに喫茶店があったことは知らなかったです。古い音楽が好きだったり、レトロなものは好きなのですぐに気に入りました。第一印象は広いなということ。テーブルや椅子はそのままで、変えたのはオーディオスペースを作ったことくらい。オープンにあたって購入したものは、食器、オーディオ、ガスコンロ、電子レンジ、炊飯器程度ですね」(加藤さん)

「出会いは写真でしたが、内装がすごく気に入ったんです。以前、古い喫茶店でアルバイトをしていたこともあって、新しいものより昔からあるものに惹かれます」とは、パートナーの五十嵐りかさん。

Donatoの写真4、ドナートの写真4

ジャズという要素はそこまで重要ではない

店内は30席と広く、手前のテーブル席エリアと、奥にあるカウンター+テーブル席が仕切られた構造になっている。スピーカーは手前スペースにあり、しっかりとした音圧&大音量でジャズが流れる。ひとりで本を読んだり、ぼーっとしながら音楽に耳を傾けるのに最適な空間だ。メニュー表には「会話は控えめに」の文言もあるが、ここは昔ながらのジャズ喫茶を目指しているわけではない。

「コロナとかを抜きにして、時代の気分として、喋りたくない人が多いだろうなと思ったんです。余計な情報を入れたくないというか。ふたり客の方など幅広い人に利用して欲しいと思っていますが、静かにゆっくり過ごしたいときの選択肢として使っていただければと。なので、ジャズはそこまで重要ではないんです。自分がジャズ好きなことはありますけど、ジャズなら作業しながらでも永遠に聴ける。また、それなりの音響でレコードで聴かないとわからない音楽というか・・・イヤホンで聴いてもつまらないアルバムも多いので」(加藤さん)

「以前はOLでしたが、自分の場所は自分で作りたいなと思っていたんです。喫茶店に憧れはありましたが、私のイメージの中にジャズの要素はなかった。でも、実際にやってみたらジャズ喫茶で良かったと思っています。深い接客が苦手だったり、人の会話がたくさん聞こえてくるのもストレスだと思うんです。音楽も好きだし、ちょうど良かったかなと思います」(五十嵐さん)

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アルバム一枚を大音量で堪能できる

オープンにあたって揃えたという音響機器は、スピーカーにアルテックのコロナド、パワーアンプがマランツ、プリアンプにダイナコ、ターンテーブルはテクニクスのSL-1600という組み合わせだ。

前職の社長にオーディオ専門の方を紹介していただいて、一緒に選んでもらいました。壊れにくく、しっかりと鳴ることを重視しましたがすごく気に入っています。忙しいときはこまめに針を拾えないので、ターンテーブルはオート機構のあるものにしています」(加藤さん)

バランス良くしっかりと迫力のある音を鳴らしながら、サウンドに没頭できる心地よさを持ったシステム。大音量に慣れていない人は最初こそ驚くかもしれないが、すぐに馴染んで心地よさを感じることだろう。

Donatoの写真6、ドナートの写真6

「いろいろ好きなので、ECM、インパルスのフリージャズもの、ピアノトリオなど幅広くレコードで揃えています。基本的にアルバム一枚をかけるスタイルですね」(加藤さん)

ジャズを聴くようになったのは前職のレコード屋時代からだというが、のめり込むようになったのはクリフォード・ジョーダンの『NIGHT OF THE MARK VII』を聴いてからだという。

「もともとソウル、ファンクが好きでしたが、ジャズに関してはレアグルーヴ的な聴き方もサンプリングの元ネタ的な聴き方もピンとこなかったんです。コルトレーンやマイルスなどいわゆる名盤も聴いてみたりはしていましたが、”なるほど”と思ったのはクリフォード・ジョーダンのライブ盤。”この人たちは永遠に演奏したいんだな”とわかったときジャズの面白さが掴めたというか、ジャズの作曲、アドリブというのが自分なりに理解できたんです」(加藤さん)

Donatoの写真7、ドナートの写真7

SNSは宣伝として使うがバズりたくはない

まだオープンして間もないが、すでに週末ともなれば幅広い層の人たちが来店している。若い人たちは主にSNSを見て足を運んでいるようだ。

「ハッシュタグも付けていないですし、どうやって見つけてくれたのか不思議なんですよ。Instagramは文章的なものを添えていますが、Twitterにしても基本的にはバズらないようにしています。SNSは仮想世界でしか担保されていないものなので、運営会社が倒産したらゼロになってしまう。そう考えると“バズ”って空虚なものだなと思うんです。不確定なものに期待するよりも、地に足をつけたいと思っています」(加藤さん)

スタイルや情熱をしっかりと表現しながらも、無意味なエネルギーは使わずゴールに向けてすべてを巧みに取捨選択しながら進める姿は、Z世代的なニュアンスを感じる。それが昭和的な空間に抽出されているのもまた新しい。外観や内観のイメージだけで『Donato』を早合点してしまうと見落としてしまうものが多そうだ。若い世代の来訪者はそこを独自の嗅覚で感じ取っているのだろう。

Donatoの写真7、ドナートの写真7

前店主から受け継いだサイフォン式の珈琲

メニューに関しては、ナポリタンやカレー、ピザトーストなど空間に合うクラシックなものをラインナップしている。チーズケーキやチョコレートケーキ、さらにはお酒も用意されているなど、幅広い要望に応えることができる。昔ながらの味わいが楽しめる珈琲は、以前の店主から受け継いだサイフォンを使い、淹れ方も教わり、珈琲豆も同じものを使っている。

Donatoの写真8、ドナートの写真8

「ジャズに興味がない人にも来てもらって、お酒も楽しんでもらって、間口広く街の喫茶店として利用してくれればいいなと思います。その中の100人にひとりくらいが、”音楽を大きい音で聴くのはいいな”と思ってくれれば嬉しいですね」(加藤さん)

「あたり前のことですが、毎月家賃をきちんと払って生活していかなければならないので・・・、もともとジャズ喫茶がお好きな方だけでなく、そうでない方にも気軽に足を運んでいただけるような居心地の良い場所にしていきたいです」(五十嵐さん)

取材・文/富山英三郎
撮影/高瀬竜弥

Donatoの写真9、ドナートの写真9


・店舗名 ドナート
・住所 東京都千代田区神田駿河台3-3-8五明館ビル1F
・営業時間 12:00~22:00(ランチ ~17:00)
※コロナ禍で営業時間が変動する可能性がありますので来店時は下記SNSをご確認ください
・定休日 日曜、月曜
・Instagram https://www.instagram.com/donato_kissa/
・Twitter @donato_kissa

 

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