近年に出版された “ジャズ関連書籍” の中から、おすすめの21冊をピックアップ。ディスクガイドや歴史もの、人物伝、訳書、電子書籍など、さまざまなタイプの “ジャズにまつわる読み物” を紹介します。
『秋吉敏子と渡辺貞夫』
西田浩/新潮社/2019年
1953年2人の出会いが日本のジャズを変えた——。ジャズの魅力に取りつかれてから、70年以上。1929年生まれの秋吉敏子と1933年生まれの渡辺貞夫は今なお、精力的に演奏活動を続ける。ジャズとの出合い、アメリカでの修業、そして世界的ミュージシャンとしての栄光……。戦後日本ジャズ史に重なる2人の人生を、本人たちへの長年の取材をもとに描き出す。ペギー葉山、山下洋輔、原信夫、渡辺香津美たちの証言も満載。
【著者インタビュー】
https://www.arban-mag.com/article/73677
『マイルス・デイヴィス大事典』
小川隆夫/シンコーミュージック・エンタテイメント/2021年
ジャズ界の巨人マイルス・デイヴィス。本書は常にジャズを改革し、前進させた彼の偉業を丸ごとパッケージした百科事典。著者はマイルスとは直接的な関係を築き、その音楽を長年研究してきた音楽ジャーナリストの小川隆夫。アルバム、シングル、EP、プロモ盤、ボックスなど、わかる限りすべてのアイテムと全楽曲を解説。そして、ジャズメンを中心とするミュージシャンや業界関連人物の人名事典も掲載。かゆいところに手が届く充実振りとなっている。
【著者インタビュー】
https://www.arban-mag.com/article/73763
『ニッポンの音楽批評150年100冊』
栗原裕一郎、大谷能生/立東舎/2021年
明治初年前後から令和初頭までのおよそ150年の間、日本において「音楽」は、どのように記述され、語られてきたのか? 本書は1876年から2025年までを30年ずつに区切り、「ドレミ音楽教育の日本への導入」などそれぞれの時代の音楽を取り巻く言説の配置を語る「通史」と、「音楽之友」や「ロッキング・オン」など、その時代に出版された代表的な「音楽の本」を20冊選んで解説する「ブックガイド」によって構成される一冊となっている。
【著者インタビュー】
https://www.arban-mag.com/article/73721
『ベニー・グッドマンとグレン・ミラーの時代 -人種差別と闘ったスウィングの巨人たち』
小針俊郎/駒草出版/2022年
「スウィング」は現在「ジャズ」とは別の音楽だと思われがちだが、一方で「スウィング」がなければ「ジャズ」はアフリカン・アメリカンという、一部の人々のローカルな音楽でしかなかった。ジャズがアフリカン・アメリカンのローカリズムを脱して普遍性を獲得するためには、アフリカ系以外の人種民族が関与するスウィングという歴史時間が必要でもあった。本書は「スウィング」の成立過程を通して、アメリカ文化にまで言及した一冊。
『ジャズ超名盤研究 3』
小川隆夫/シンコーミュージック・エンタテイメント/2021年
音楽ジャーナリストの小川隆夫が、ジャズ・ファンにお馴染みの “超名盤” を徹底解説。収録曲の詳細な解説はもとより、演奏者や関係者の発言なども織り交ぜながら作品を解剖する。本シリーズは『スイング・ジャーナル』誌の連載「ジャズ超名盤研究」をもとに書籍化された“第1弾” を経て、オール書き下ろしの第2弾、これに続く第3弾となる。本書では33作のアルバムを紹介している。
『ジャケ買いしてしまった!!―ストリーミング時代に反逆する前代未聞のJAZZガイド』
中野俊成/シンコーミュージック・エンタテイメント/2021年
昨今の世界的なレコードブームの中、レコードの大きな魅力であるジャケット。本作は『アメトーーク』や『ポツンと一軒家』(ともにテレビ朝日系)、『プレバト!』(TBS系)など、人気番組を数多く手がける放送作家・中野俊成が「JAZZ JAPAN」(シンコーミュージック・エンタテイメント)に連載中の「そして、ジャケ買いしてしまった」から、珠玉のエピソードを厳選した「ジャケ買い」に特化したジャケットガイドとなっている。
『東欧ジャズ・レコード旅のしおり』
岡島豊樹/カンパニー社/2021年
『ソ連メロディヤ・ジャズ盤の宇宙』に続く、ジャズ・ガイド第2弾。前作ではソビエト連邦でつくられたジャズ作品を紹介。第2弾となる本書ではポーランド、チェコスロヴァキア、ハンガリー、ユーゴスラヴィア、ルーマニア、ブルガリアの東欧6カ国のジャズを紹介。社会主義、共産主義国家においてジャズはどのように扱われ、演奏され、録音されてきたのかを作品とともに紹介。
『square sound stand「サブスクで学ぶジャズ史」2 ~プレイリスト・ウイズ・ライナーノーツ016~』
池上信次/小学館/2022年
Spotify、Amazon Music Unlimited、Apple Musicなど音楽「サブスクリプション」と連動した電子書籍シリーズ「プレイリスト・ウイズ・ライナーノーツ」。これまでにマイルス・デイヴィスやビル・エヴァンスなどの人物や、ボサノヴァ、メロウジャズといったテーマで名曲を紹介する“絶対名曲”編が14タイトル制作されており、これに続く“サブスクで学ぶジャズ史”編もスタート。サブスクの欠点(=ジャズで重視される “演奏メンバー” などの情報を知ることができない)を補完する画期的な企画。価格の安さ(220円〜330円)も魅力だ。
『台湾ジャーナリストが見たニッポンのジャズ喫茶』
周靖庭(写真)、高智範(翻訳)/株式会社シーディージャーナル/2021年
日本固有の文化「ジャズ喫茶」は、現在では韓国や台湾などアジア諸国をはじめ、ロンドン・ロサンゼルスなど欧米でも「JAZZ KISSA」として登場し、日本が生んだ「ジャズ喫茶文化」が世界に広がりをみせようとしている。本作はそんな日本のジャズ喫茶事情に注目した台湾のオーディオ専門誌のジャーナリストが、全国20店のジャズ喫茶の姿を、その魅力とともに紹介した「音楽文化論」ともいえる内容になっている。
『近代日本の音楽百年―黒船から終戦まで〈第4巻〉ジャズの時代』
細川周平/岩波書店/2020年
ペリー来航から終戦までの100年間、教育、産業、テクノロジーなどの分野を含めて、「音楽」をめぐるあらゆる営みが、劇的な変容を遂げていった。震災復興期に登場したジャズは、流行に留まらず、広く人びとの感受性と思考を変革させ、都市中間層を中心にアメリカ文化が受容されていくなかで、ジャズは時代の文化の中心に位置して、新しい風俗すべてと結びあった……。ジャズがもたらした日本社会の狂騒と混沌、その様相が叙述された1冊。
『ビリー・ホリデイとカフェ・ソサエティの人びと―「奇妙な果実」の時代をたずねて』
生野象子/青土社/2020年
黒人差別の時代、虐殺され木に吊るされた黒人を歌った「奇妙な果実」。あまりに暗い影を落とすこの歌に惹かれた著者は渡米し、華々しくも悲劇的なビリー・ホリデイの生涯と、悲しくも熱いジャズの時代を追いかけて、「奇妙な果実」の舞台裏に迫る……。当時のことを知るあらゆる人物と会い、多くの話を聞いた魂をゆさぶるノンフィクション。時代の熱、淡々とした歌声、変動する社会——。もうひとつのジャズの時代を歩く。
『近代日本のジャズセンセーション』
青木学/青弓社/2020年
今でこそ大人の音楽として親しまれるジャズは、大正末期から戦前・戦中に若者を中心に一大センセーションを巻き起こした。その熱狂の理由は何だったのか? 演奏者や歌い手、楽曲を中心に語られたこれまでのジャズ史からは距離を取り、「人々はどう受け入れたのか」「なぜ熱狂したのか」という視点から多くの史料を渉猟して、自由でモダンな空気を当時の人々にもたらし、多様な文化に多大な影響を与えた受容のインパクトに光を当てる。
『ページをめくるとジャズが聞こえる 村井康司《ジャズと文学》の評論集』
村井康司/シンコーミュージック・エンタテイメント/2020年
音楽評論家の村井康司がこれまでにさまざまなメディアに寄せてきた、ジャズに関するエッセイや評論を中心に、新たな書き下ろしも多数加えてまとめた待望の新刊。ジャズはもちろん、村上春樹、F・スコット・フィッツジェラルド、ボリス・ヴィアン、ジャック・ケルアックなど、「文学の中のジャズ」も徹底的に掘り下げる。462曲分のSpotifyプレイリストが聴けるQRコードも付いているので、実際の音と共に本が読める。
『一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』
後藤雅洋/小学館/2020年
ジャケット写真とわかりやすい解説に加え、主要アルバムを「実際に聴いた感じ」(目覚めに聴きたい、気分を落ち着かせる時などの “シチュエーション” や “声質” )で分類して解説。また、「ポピュラー・シンガーが歌うジャズ」「21世紀のジャズ・ヴォーカル」など、幅広い視点でジャズ・ヴォーカルの楽しみ方を紹介。初心者からジャズ通までをターゲットとした、ジャズ・ヴォーカル名盤のすべてがわかる1冊。
『昭和ジャズ論集成』
野口久光、油井正一、植草甚一、清水俊彦、相倉久人ほか/平凡社/2020年
日本でジャズが最も熱狂的に演奏され、聴かれたのが昭和時代。戦争もあり、政治的にも文化的にも一番熱かった時代に、評論家は何を書いたのか? クラシック・ジャズがマニアをとらえた時代から、60年代初頭のファンキー・ブームでジャズ熱が一般に広まり、さらにフリー・ジャズが爆発し、やがては昭和期の終焉と歩調を合わせるようにジャズがエンタテイメント化の色を濃くしていく直前までの、時代の「熱と毒」とを一冊に封じ込める。
『ジャズの秘境―今まで誰も言わなかったジャズCDの聴き方がわかる本』
嶋 護/DU BOOKS/2020年
オーディオについての執筆と翻訳を手がける著書による、録音作品の「外の世界」への創造力をかきたてる「ジャズ/オーディオ・アンソロジー」。ビル・エヴァンスの最期の日々を追いながら、マスタリングによる音色の差異を喝破する〈絞殺された白鳥の歌〉など、ルディ・ヴァン=ゲルダーとロイ・デュナン、ユウコ・マブチ、ボブ・キンドレッド、ポール・デスモンド、レイ・ブライアントといったアーティストやCDに関する全16章を収録。
『伝説のライヴ・イン・ジャパン―記憶と記録でひもとくジャズ史』
小川隆夫/シンコーミュージック・エンタテイメント/2019年
1952年のジーン・クルーパ・トリオに始まるジャズ・アーティストたちの来日公演と、日本のミュージシャンによる伝説的なセッションは、ジャズの最先端を日本に知らせるとともに、日本のジャズ界を刺激し、前進させる力を与えていた……。本作はジャーナリストの小川隆夫が、自らが行なったインタビューや、ジャズの専門誌、新聞や週刊誌など当時のメディアの記事を踏まえつつ、抜群の咀嚼力と構成力でまとめた迫真のドキュメンタリー。
『「最高の音」を探して ロン・カーターのジャズと人生』
ダン・ウーレット(著)、丸山京子(翻訳)/シンコーミュージック・エンタテイメント/2021年
ウイスキー、コーヒー、保険、薬品、紳士服ほかのCMに登場するなど、日本でも大きな人気を誇る稀代のジャズ・ベーシスト、ロン・カーター。クラシックのチェロ奏者を目指したものの、人種差別のためにその道をあきらめた彼は、いかにしてジャズの世界でベーシストとしてトップの地位まで登り詰めたのか? マイルス・デイヴィスら多数の共演者とのエピソードから、自らの音楽論まで、その人生をリアルに描き出した一冊となっている。
『ジャズシーン』
エリック・ホブズボーム(著)、諸岡敏行(翻訳)/績文堂出版/2021年
ジャズを愛したイギリスの歴史家、エリック・ホブズボーム。彼自身は2012年に死去するが、本作はそんな20世紀を代表する歴史家によるジャズ本。「ジャズは20世紀の突出した文化現象であり、音楽という一分野を超えて、途方もない力でわたしたちの生きる社会をその影響下においている」。本作ではジャズの歴史、楽器、功績、社会への影響に及ぼしてきたことを歴史家の視点から、鋭く描き出している。
『トミー・リピューマのバラード―ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』
ベン・シドラン(著)、吉成伸幸、アンジェロ(翻訳)/シンコーミュージック・エンタテイメント/2021年
最も売れたジャズ・アルバムのひとつとして知られるジョージ・ベンソンの『ブリージン』。ベンソンを表舞台に引き上げた立役者がジャズを核としつつも、ポピュラー・ミュージック全般に造詣が深いプロデューサーであったトミー・リピューマ。グラミー賞に33回ノミネートされ(5回受賞)、手掛けたアルバムの売り上げは何と7500万枚という名伯楽が、いかにして成功を手に入れるに至ったのかを、アーティストのベン・シドランが綴る。
『ジャズ・スタンダード―聴いて弾いて愉しむ 252曲』
テッド・ジョイア(著)、鈴木潤(翻訳)/みすず書房/2021年
出版社のホームページでの紹介いわく、本書は「最もよくリサーチされたジャズ・スタンダード解説書」。著者であるテッド・ジョイアの音楽史家としての専門的な知識と、演奏家(ピアニスト)としての経験的な批評に加え、詳細なディスコグラフィや索引が付けられた本書は、アカデミックな関心に応えられるのはもちろんのこと、ファンのためのリファレンス・ブック、ミュージシャンのためのレパートリーの手引きとして絶好の1冊となっている。