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【インタビュー】清水玲奈─“歌っているようなインスト”目指すサックス奏者【Women In JAZZ/#41】

清水玲奈

清水玲奈は現在、東京と大阪の両方で活動しているテナー・サックス奏者。かつては「東京ブラススタイル」のメンバーとして活躍し、そのメロディアスで歌心溢れるプレイで、現在も多くのセッションなどで活躍している。そんな彼女の2作目となるリーダー・アルバム『the new dawn』がリリースされた。

じゃんけんで決めたテナー・サックス

──テナー・サックスを始めたきっかけは?

地元は大阪で、子供の頃からピアノをやっていて、中学生の時に吹奏楽部に入ってフルートを始めました。マーチング・バンドなどで屋外で演奏する機会があったんですけど、いっぱい吹いても音量が小さいのがすごく苦痛で(笑)。それで高校の軽音楽部に入った時に、もっと大きな音が鳴る楽器、トランペットかサックスがやりたいと思ったんです。

ただ、そのクラブが担当楽器をじゃんけんで決めるようなところで(笑)、トランペットもアルト・サックスも希望者がむちゃくちゃ多くて、バリトン・サックスはできない自信があったので、最後に残ったのがテナー・サックスでした。テナーもけっこう希望者はいたんですけど、じゃんけんでチョキを出して勝ち取りました(笑)。

──高校ではどんな音楽をやっていたのですか?

ジャズのビッグ・バンドをやっていたんですけど、いざ始めてみたらテナー・サックスのソロが多くて“この楽器、メチャクチャ活躍するやん!”って(笑)。吹奏楽のときは、ハーモニー作りの温かい音が出る楽器というイメージだったんですけど、ジャズでは自由にブリブリと、まるで人が話しているような感じ。そういうギャップにもすごく惹かれて、どんどんテナー・サックスにはまっていきましたね。

──テナー・サックスって、サイズも大きいし重いから、女子高生が演奏するにはけっこうたいへんだったんじゃないですか?

最初はたいへんでした。楽器のハード・ケースもめちゃくちゃ重くて、手にまめを作りながら持ち歩いてました。でも負けず嫌いなので “意地でもこの楽器を操れるようになってやる”って、根性で懸命に吹いていくうちにだんだん仲良くなっていった感じですね。

──当時、憧れていたサックス奏者はいましたか?

イエロージャケッツのボブ・ミンツァーがすごく好きでしたね。あと高校生のときに自分たちのバンドでやる曲を探しにCDショップに行って。そこでビル・エヴァンス(注1)の『Vans Joint』というビッグ・バンド・アルバムを見つけて。すごくキャッチーで、ポップなメロディに感じられて、サックスも自由に歌っぽく吹いているスタイルがカッコいいなって。

注1:Bill Evans。サックス奏者。1980年代前半にマイルス・デイビス・グループに抜擢されて注目を集め、その後ソロ・アーティストとして活動中。ピアニストのビル・エヴァンスとは同名異人。

──ポップな面を持ったジャズプレイヤーが好きなんですね。

そうですね。今のアイドルはジェフ・コフィン(注2)です。もとはデイブ・マシューズ・バンドのライブ映像がきっかけでハマって、5年前に東京でクリニックがあったので行ったんです。空き時間に勇気を出して彼に話しかけてみたら、その日がたまたま私の誕生日で、クリニックの最後にセッションで一緒に音を出してもらえて、バースデー・ソングまで吹いてくれたんです。すごく感激して、プレイだけでなくパーソナルもすごく憧れるようになりました。技術も素晴らしいんですけど、彼の出す味のあるフレーズやサウンドが好きですね。

注2:Jeff Coffin。サックス奏者。ベラ・フレック&フレックトーンズ、デイブ・マシューズ・バンドのメンバーとしても活躍。その後も様々なアーティストをサポートする一方、ソロ・アーティストとしても、自身のレーベルEar Up Recordsから数多くのソロ・アルバムをリリース。

──学生時代はビッグ・バンド以外の活動はしていたのですか?

高校卒業後に神戸の音楽専門学校に進んで、そこはフュージョン系が強いところで、マイク・スターンとかが好きなギタリストやベーシストが同期にいたので、自分もそういう曲をやるようになっていって、サックス以外のプレイヤーも聴くようになりました。

上手い下手にとらわれない音楽が面白い

──プロとして活動を始めたのは、いつ頃からですか?

大阪ではライブもやっていたんですけど、もっといろいろなミュージシャンの人たちと知り合って、活動の幅を広げたいと思って、東京に行ってセッションとかもするようになりました。それがきっかけで東京ブラススタイル(注3/以下:ブラスタ)に入ることになったんです。本格的なプロとしての活動はそこからですね。

注3:ガールズ・ブラス・ユニット。2005年に結成され、2007年に『ブラスタ天国』でメジャー・デビュー。アニソンのカバーをブラスで演奏するスタイルが話題となり、日本のみならず海外でも高い人気を得る。清水玲奈は2代目のテナー・サックス奏者として2015年9月〜2017年12月在籍。

──ブラスタのメンバーはみんな同世代の女の子たちですから、それも刺激になったのでは?

女の子の集団は中学の吹奏楽部でけっこう飽きていたし、もともと苦手だったので(笑)、やっていけるかなって不安だったんです。けど、いざ入ってみたらみんな個性があって、それがめちゃくちゃ面白くて、そんな中で自分の個性も出せるようになっていきました。

──ブラスタの音楽って、それまでのビッグ・バンドと比べても、もっとエンターテインメント性が強いですよね。

それまでの私は音楽の“上手い下手”に囚われていたんですけど、それが一気になくなって「自分が伝えたいものを音楽を使って届けたい」という意識に変わった。楽器を演奏することがさらに楽しくなりました。

ブラスタで、海外も含めていろいろなところで演奏させていただいたんですけど、自分が発信したいものをしっかりと持っていたら、伝わることってこんなにたくさんあるんだなっていうのを実感しました。

──ブラスタって、音楽だけではなくて、見せる要素もありますもんね。

そうなんですよ。それまでメンズライクだった私が、ミニスカートをはいて(笑)。でも自分自身に合うスタイルで表現していくことに切り替えられたので、そこからはブラスタ以外の活動でも自分らしくできているなって感じます。

──バンドで辛かったことや困ったことは?

メンバーそれぞれの性格は違うけど、みんなすごくいい子で。ツアーなんかもすごくワクワクして行けました。でも遠征など移動が多かったので、体力的にはすごくたいへんでしたね。年一回は風邪を引いてました(笑)。

──ソロとして活動を始めたのはいつ頃からですか?

ブラスタでは2年くらい活動をしたんですけど、もっと自分軸で活動をしたいと思って卒業しました。

サックス=ジャズというイメージを覆したい

──玲奈さんのサウンドって、いい意味でポップだなって感じます。

歌っぽいフレーズで簡単にコピー出来そうなんだけど、その人にしか出せないスタイルを持っている人。自分はそういうプレイヤーがカッコいいなって思うんです。なので、自分のオリジナル曲では、いかに歌っぽいか、インストなんだけど口ずさめるような曲というのを作るようになっていきました。

──今回のアルバムには、テーマのようなものはあったのですか?

一般的な音楽のリスナーがサックスに持っているイメージって“ジャズの楽器でしょ”という感じですよね。でもそうじゃなくて、サックスっていろいろな幅で楽しめる楽器だと思うんです。だから自分のスタイルとして、歌メロをサックスでも吹けるということをより強く伝えたかったし、伝えたいものを1曲の中にギュッと凝縮したいなと。サックスにあまり馴染みのない人にもスルッと聴いてもらえるようなものになればいいなと考えながら作りました。

Rina Shimizu『the new dawn』(Coolwind)

──サックスを全面的にアピールするというよりは、全体のサウンドにサックスを馴染ませつつ、存在感を出しているように感じます。

それはファースト・アルバムの頃から思っていることで、サックスがブリブリと吹いてるアルバムというのはたくさんあるけど、サックスも一緒にサウンドして1曲のストーリーになっている。そこはひとつのコンセプトとしてありますね。今回トラック制作をしてくれたBASSICKさんやMakoto Nagataさんともいろいろと相談しながらアレンジをしていきました。

──1作の中で、けっこういろいろな感情が表現されているような気がします。

「contradiction」は“矛盾だらけで嫌気がさしてます”という荒れてる曲で、ライブではずっとやっていたんですけど、もうちょっとキャッチーさが欲しくて新たにアレンジし直しました。

──「distorted love」という曲は?

loveって、大人になればなるほど難しく考えちゃうというか、恋愛だけでなく家族や友人であっても、自分ではこうやってあげているけど、相手にとってはそれが苦痛だったりすることもありますよね。その一方で他人からはいびつに思えても、本人同士はそれが心地よくてバランスが取れていたりすることもある。そういう一言では言い表せないようなカタチがあるんだということを表現したくて作りました。

後半に何回も同じメロディが出てきて、人が叫んでいるようなサックスの音が入っていたり、音色もちょっと歪ませたり、ちょっといびつなコードを使ったりしていて、その中でもがいているけど、その果ては全然ネガティブじゃない、って。

──ラストの「夜明け」はボーカル入りですね。

元々はインストで演奏していた曲なんですけど、自分の中でちょっとしっくりこなかったんです。それで私のイメージをボーカルの桑原睦実ちゃんに伝えて歌詞を書いてもらったら、彼女の日本語の歌詞がすごく自分の中で腑に落ちて、メッセージもよりストレートに伝わって、曲が一気に立体的になりました。

──この曲がアルバム・タイトルの『the new dawn』とも繋がっているんですよね。

この曲を最後に入れることで、みんなに前を向いて欲しいという、アルバムのコンセプト感も出てくるかなと。最近はアルバムを全部聴く人ってすごく減ってきていると思うんですけど、アルバム全体のストーリーも聴いて欲しいので、アルバム・タイトルと曲のタイトルを関連付けることによって、アルバム全体が聴きやすくなるかも、という思いもあります。

──ジャケットもすごくおしゃれ。ビジュアル面のこだわりはありますか?

昔はけっこうボーイッシュで、デニムとTシャツで演奏していたりしていて、スカートをはくのも苦手だったんです。でもそこからだんだん自分の体型に合う服を考えるようになって。最近は自分がその時に直感的に、こういうのがカッコいいなと思ったものを身に着けるようになりました。

──ファッションで特に気を遣っているところはありますか?

ヒールが苦手ですが…。サックスを持った時に、楽器に吹かされている感が出ないように、自分がこの子を操っているんだと見せられるような、自分が大きく見えるようなファッションというのは心がけていますね。

清水玲奈/しみずれいな(写真右)
大阪府堺市出身。6歳よりピアノ、13歳よりフルートを始める。高校で軽音楽部に入り、テナー・サックスを始める。2008年に甲陽音楽学院に入学、卒業後の2015年9月に東京ブラススタイルに加入。2017年12月からソロとしての活動を始め、様々なアーティストのライブ・サポートやレコーディングに参加。2017年には松尾スズキ演出、長澤まさみ主演のミュージカル『キャバレー』のキット・カット・クラブ・バンドのメンバーとして全国38公演に出演。2018年、初めてのソロ・アルバム『1031〜イチマルサンイチ〜』をリリース。2020年、サックス、フルート、キーボードなども多重録音したデジタル・シングル「Thick Fog」をリリース。現在は日本のみならず、台湾やメキシコ、スペインなど海外でも幅広く活躍中。

島田奈央子/しまだ なおこ(インタビュアー/写真左)
音楽ライター / プロデューサー。音楽情報誌や日本経済新聞電子版など、ジャズを中心にコラムやインタビュー記事、レビューなどを執筆するほか、CDの解説を数多く手掛ける。自らプロデュースするジャズ・イベント「Something Jazzy」を開催しながら、新しいジャズの聴き方や楽しみ方を提案。2010年の 著書「Something Jazzy女子のための新しいジャズ・ガイド」により、“女子ジャズ”ブームの火付け役となる。その他、イベントの企画やCDの選曲・監修、プロデュース、TV、ラジオ出演など活動は多岐に渡る。

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