投稿日 : 2022.03.30
【対談】黒田卓也/石若駿|互いの“テンション上がる” 待望のステージへ─ LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2022
音楽フェスティバル「LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2022」が開催される(2022年5月14日、15日/埼玉県秩父ミューズパークにて実施)。イギリス発祥のこのイベントには、国内外の人気ミュージシャンたちが多数登場。
目移りするようなラインナップのなか、本誌として気になるのは黒田卓也、石若駿の両氏である。今回、石若駿は自身が率いるグループ「Answer to Remember」として出演。一方、黒田卓也も自らが率いる大編成のバンド「aTak(エイタック)」として出演する。さらに黒田はAnswer to Rememberにゲストプレイヤーとしても参加。
このイベントでの二人は “共演者” であり、それぞれに “コンセプチュアルかつユニークなバンド” の牽引者である。また、ともに国際的に活躍する日本人プレイヤーであり、信頼しあえる仲間でもある。そんな、いくつもの接点を持つ “異質なふたり”は、口を揃えて「このステージに立つのが楽しみで仕方ない」という。コロナ禍を経て望むこの舞台に、両者は何を託すのか。
ふたりの「居場所」
──お互いのバンドやフェスの話をする前に、お二人の仲について伺いたいのですが、初めて会ったときのことを覚えていますか?
石若 2010年だったと思います。卓也さんが最初のアルバム出して東京でライブやったときに初めて会いました。当時、僕は高校生でしたね。
黒田 うん、覚えてる。イントロ(※1)だよね。
※1:Jazz Spot Intro。東京都新宿区高田馬場にあるジャズセッション・バー。1974年の開店以来、ジャズファンとプレイヤーをつなぐ重要拠点として知られる。
石若 その後も、卓也さんが日本に帰ってくるたびに会うようになって。いつも気さくに「最近どうよ」って声をかけてくれるので嬉しく思っていました。なにかと僕のことを気にかけてくれるお兄さん、みたいな存在で。
──やがて共演するようにもなっていった。
黒田 最初は2012年頃ですかね。NHKのラジオ番組のセッションで一緒に出たり、その後もいろいろと。
──そして2019年には、石若さん率いるAnswer to Rememberのアルバムに黒田さんがゲストとして参加。今回の「LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2022」でもAnswer to Rememberのゲストミュージシャンとして共演しますね。
石若 そうですね。Answer to Rememberのアルバムを出したときに、「GNR」っていう曲で卓也さんに参加してもらいました。
──亡くなったロイ・ハーグローヴ(※2)をトリビュートした曲ですね。
※2:Roy Hargrove(1969-2018)米テキサス州出身のトランペット/フリューゲルホーン奏者。1990年のデビューアルバム発表後、伝統的なジャズだけでなくラテン音楽やR&B、ファンクなどジャンルの交差と探求を続けた。2018年11月2日、腎臓病に起因する心不全で死去。49歳没。
石若 ロイ・ハーグローヴは、僕がジャズをやり始めた頃からずっと聴いてきた、大好きなミュージシャンの一人です。
──黒田さんはこの曲を渡されたときにどう感じた?
黒田 めっちゃロイやな、と思いました(笑)。
石若 僕自身はそれまで、誰かをトリビュートするような曲は作ってきませんでした。音楽を作る上で、常に新しい響きとかフレッシュなものを生み出すことに意識が向いていて、“誰かがやっている音楽” にしたくないモードの時期があったと思います。
でもその一方で、トリビュートが好きな自分もいて。ちょうどその頃(ロイの死去後)、かつて自分の中にあったトリビュート熱が再燃した時期でもありました。そういうタイミングが巡り合って、この曲で卓也さんにお願いしました。
レコーディングの時に「やっぱスゲぇな」ってめっちゃ思いました。あまり設定とかなくて、オープンなセッションで「じゃ、お願いします」って感じだったのですが、イントロでトランペットが重なっていくアイディアとか、なんかすごい技を目の当たりにして。
黒田 いや、しっかりとしたディレクションがついている曲だったので、イメージはどんどん出てきた。すごく難しい曲が来たらどうしよう…って思ってたけどね(笑)、うまく行ってよかった。
──黒田さんはゲストとしてAnswer to Remember に加わってみて、何を思いましたか?
黒田 ここは駿がいちばん楽しい場所なんやな…と感じました。良い意味で “遊べるところ”っていうか、彼にとって刺激的で楽しい場所。メンバー(※3)も個性的で面白い人たちが集まっていていいなって。
※3:石若 駿(ds)/MELRAW(sax)/佐瀬悠輔(tp)/中島朱葉(sax)/海堀弘太(key)/若井優也(pf)/Marty Holoubek(b)。ほか、楽曲により多彩なゲストミュージシャンを迎えている。
石若 そこは僕も同じで「aTakいいな〜」って思いますよ。ここで演奏したら絶対楽しいでしょ、って。
aTakの衝撃
石若 初めてaTakのステージを観た時は本当に衝撃的でした。全部の曲で、演奏者(※4)全員の深いつながりが見える。これをお客さんとして体感するのもすごく楽しかったし、羨ましくもあった。なんか、あらためて「バンドっていいな」って思いました。
※4:黒田卓也(tp)/西口明宏(t.sax)/吉本章紘(t.sax)/浦ヒロノリ(a.sax)/馬場智章(b.sax)/陸悠(b.sax)/吉田サトシ(g)/荻原亮(g)/篠奈々子(per)/山下あすか(per)/クンクン(b)/菅野知明(ds)/ Hiro-a-key(vo)/FiJA(vo)。※今回の「LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2022」では吉田サトシにかわり小川翔が出演。
石若 あと、これは個人的な想いですけど、たとえばメンバーの吉本(章紘)さん。僕は吉本さんのバンドのメンバーとして活動していたこともありますが、卓也さんと吉本さんが一緒にやっている様子って、ちゃんと見たことなかった。これだけでも新鮮というか感動的でした。お二人は中学校の頃からの付き合いですよね。
黒田 そうだね。
石若 そんな二人が、大人になるにつれてそれぞれの道を進んで、いま再びこんな形で共演している。その様子を見ていると、なんかジーンとくる(笑)。
ほかにも、たとえば(荻原)亮さんと(吉田)サトシさんが並んでギター弾いているとか、なんかもう感動的なんですよね。そういうのを見ていると、僕も「もっとたくさん、いろんなことやりたいな」って思います。
──そんなaTakが結成されたのは、どんな経緯で?
黒田 このグループが始まったのは2018年。当時、渋谷のライブハウスでやっていた大忘年会イベントがあって、そのタイトルが「aTak」だったんですよ。そこで披露したアフロビートを意識した大編成バンドを「aTak バンド」と呼んでいて。それが始まりですね。ただし年1回のイベントなので演奏するのも年1回。
──それがやがて本格的に始動するわけですが、同時期にパンデミックが起きてしまった。大所帯のバンドにとって、かなりの逆風ですよね。
黒田 そうですね。ただ、コロナ禍の日本にいて「自分にとって何がいちばん楽しいのか?」って考えたらこのバンドだったんですよね。メンバーは、まあ悪友みたいな連中ですけど(笑)「こいつらと、わいわいやるのが一番楽しいな…」と感じて。日本にいる間の2年間、頑張って推し進めたプロジェクトです。
──その間にアルバムも作り上げ、もうすぐリリースされる。ちなみに黒田さんはいろんなプロジェクトをやっていますけど、aTakに対してはどんなビジョンを描いている?
黒田 はやく「黒田卓也」っていう名前がなくなってしまえばいいと思っています。「aTak」として存在できるように、メンバーが皆それぞれ「自分のバンドなんだ」って思える場というか、そういうバンドになればいいなと。
“個人の特性が重視される世界” で名前を張ってきたプレイヤーたちに、いかにバンドにデディケートしてもらうか。そこはこのバンドにおける重要なポイントなので、僕も率先して示さなければならない。もちろん、個人の集合体ではあるのですが、やっぱり「バンド」でありたいんですよ。
──“いいバンド” であり続けるためには何が必要?
黒田 いろいろありますが、単純に “みんなと話す”こと。これが意外と重要なんです。そもそも、ミュージシャンをやっている時点でもう、かなりセンシティブな人たちなわけですよ(笑)。そういう人間が大勢あつまって一つのことをやる。しかも譜面も見ないで1曲15分とか20分もやる。そういうスタイルの音楽を、全員が同じように理解して共有するだけでも時間がかかるし、だからこそコミュニケーションは重要です。
人数が多いのでリハーサルのスケジュールを合わせるだけでも大変だし、いろいろコストもかかりますが、情熱を傾ける価値があると感じています。
──サウンドの方向性は違いますけど、石若さんのAnswer to Rememberも、これに近いマインドなのでは?
石若 そうですね。バンドのあり方としては共通する部分があると思います。Answer to Rememberは僕が声をかけて集まったグループですが、メンバーがそこで会って、バンドとしていろんなことを確かめ合える場所なんですね。
音楽的にはフレッシュであることをいつも意識していますが、“音楽してないとき”も含めて、僕はその「新鮮さを維持できる場所」を頑張って作らなければならない、っていつも思っています。
忘れられないフェス体験
──そんな両バンドが出演する今回のLOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2022。他の出演者を見ても、なかなかの猛者ぞろいです。
石若 やばいですねー。これは楽しみですねー!
黒田 こうやって海外勢も加わって、大々的に日本でやるのは、このジャンルではコロナ以降初めてでしょ。もうそれだけで最高というか、テンション上がるよね。
──このLOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL(※5)はイギリスが発祥。お二人はこれまで海外の音楽フェスに出演してきましたが、なかでも特に思い出深い体験は?
※5:2013年に初開催。英イースト・サセックスで開催されているヨーロッパ最大規模の野外ジャズフェスティバル。伝統的なジャズフェスティバルとイギリスのキャンプ文化が融合した音楽イベントとして人気を博している。
石若 高校二年生のときに、バークリーのサマープログラムでアメリカに行って、そのときにニューポートのジャズフェスに行ったんですよ。当時の僕は、ニューヨークのリアルタイムなジャズを熱心に聴いていた時期で、その人たちがみんな出演していて興奮しましたね。会場中を走り回って(笑)いろんなステージを見まくりました。
なかでも印象的だったのが、ジョシュア・レッドマンのダブルトリオっていう、ツインドラムとツインベースの編成。あと、当時ジャスティン・フォークナーが入りたてのブランフォード(・マルサリス)のカルテットとか。ミゲル・ゼノンのカルテットも凄かった。
モス・デフのバックに、ロバート・グラスパー、デリック・ホッジ、クリス・デイヴ、ケイシー・ベンジャミンがいたり。そういうのが至るところで繰り広げられていて「うわぁ!すげーっ!」って(笑)。
──うらやましい高校生活(笑)。
石若 出演する側としては、2017年のデトロイト・ジャズフェスに出たのは思い出深いですね。他の出演者とジャムセッションも結構やって、すごく楽しかった。
──黒田さんの忘れられないフェス体験は?
黒田 オランダのノース・シー・ジャズフェスティバル(※6)に自分のバンドで出演したのですが、これは人生でいちばん緊張したステージだったかもしれません。その前に、ホセ・ジェイムズのバンドで2回出ていたので、まあ余裕だろうって思っていたんですけどね。
※6:1976年に初開催。欧州最大規模のジャズフェスティバルのひとつ。10以上のステージが設置され、毎年1000人を超えるミュージシャンが出演。約7万人が訪れる。
──なぜ、そこまで緊張したのですか?
黒田 当時の僕って “いきなり世界の舞台に出てきた奴” だったんですよ。世界的に見たら「こいつ誰?」みたいな感じでUSブルーノートと契約したから、ライブのステージも当然みんなから「どんなもんじゃい」っていう目で見られるわけです。それは同業者だけでなく、オーディエンスやメディアも含めてジャッジの対象なんです。だって、知らない外国人からDMで来るんですよ。「ブルーノートから出すのは俺の方がふさわしいから、紹介しろ」とか。
──うわぁ…。世界中のいろんなプロ連中を納得させなきゃいけない。そんな状況。
黒田 そう。それで、ノース・シーみたいなモンスター級のフェスになると、トップクラスの連中が全員いるんですよ。しかもみんな同じホテルに泊まっているから顔を合わせるんですね。それで「ああ、彼らの前で演るのか…」って思ったら緊張してしまって…。あのスリルは今でも強烈に覚えています。
──逆に言うと、音楽フェスって、知らないミュージシャンのプレイを見るにはいい機会だし、新たなファンを獲得するチャンスの場でもありますね。
黒田 そうですね。それはお客さんにとっても同じことが言えると思います。まあ、とにかく“LOVE SUPREME”が楽しみですよ。
僕らaTakはコロナ禍で大変な思いをしたけど、Answer to Rememberも同じく、アルバム出して華々しくスタートした途端にコロナになって。
石若 そうですね、ライブができない状況が続いたので、今年がスタートみたいな気持ちですね。
黒田 昨年の “LOVE SUPREME”がコロナ禍で中止になって、めちゃくちゃ悔しかったんですよ。去年の僕らは「フェスのために頑張ってきた」と言ってもいいくらい、ライブを楽しみにしていたので。
でも、その1年のおかげでバンドがさらに成長できた。だからあの時より自信を持ってステージに立てる。そのことはすごく嬉しいし、悔しかったけど前向きな気持ちになれるんですよね。今年はあの悔しさを晴らすことができる、いいステージになると思いますよ。本当に楽しみですね。
LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2022
【開催日時】
2022年5月14日(土)・15日(日)
11:00 開場/12:00 開演
【会場】
埼玉県・秩父ミューズパーク
(埼玉県秩父郡 小鹿野町長留2518)
【出演】
─5月14日(土)─
●DREAMS COME TRUE
featuring 上原ひろみ, Chris Coleman, 古川昌義, 馬場智章
●SERGIO MENDES
●SIRUP
●Ovall
Guest:SIRUP, さかいゆう, 佐藤竹善(Sing Like Talking)
●aTak
●チョーキューメイ
●DJ : 沖野修也(KYOTO JAZZ MASSIVE/KYOTO JAZZ SEXTET)/松浦俊夫/YonYon
─5月15日(日)─
●ROBERT GLASPER
●SOIL&“PIMP”SESSIONS
Guest:SKY-HI/Awich/長塚健斗(WONK)
●Nulbarich
●Vaundy
●WONK
●Answer to Remember
Guest:KID FRESINO(rap)/ermhoi(vo)/Jua(rap)/黒田卓也(tp)
●Aile The Shota
●DJ : DJ Mitsu the Beats/DJ To-i (from DISH//) /柳樂光隆(Jazz The New Chapter)
チケットほか公演の詳細は以下の公式サイトにて
「LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2022」公式サイト
https://lovesupremefestival.jp/
【News!】
LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL 出演の2組による、東京・神戸公演も決定
LOVE SUPREME presents
DREAMS COME TRUE featuring 上原ひろみ, Chris Coleman, 古川昌義, 馬場智章
WONK
2022年5月21日(土)神戸ワールド記念ホール 17:00 OPEN / 18:00 START
2022年5月26日(木)東京ガーデンシアター 18:00 OPEN / 19:00 START