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【インタビュー】マーク・ターナー「僕はあえてオーネット・コールマンの逆を目指した」─全楽器のポテンシャルを活かす “雄弁カルテット”のハーモニー

マーク・ターナー

現在最も影響力のあるテナー・サックス奏者 マーク・ターナーが、カルテットによる新作『リターン・フロム・ザ・スターズ』をリリースした。

マーク・ターナー『リターン・フロム・ザ・スターズ』(ユニバーサルミュージック)

ターナーのカルテットによるアルバムは、2014年の『Lathe of Heaven』以来8年ぶり。今回の『リターン・フロム・ザ・スターズ』というタイトルは、ポーランドのSF作家、スタニスワフ・レムの長編『星からの帰還』(1961)から採ったものだ。

というわけで、まずはSFと彼の音楽の関わりについて訊いてみた。

「自由にはばたく」ための設定

──今日はまず『リターン・フロム・ザ・スターズ』というタイトルについてお尋ねします。私もSF小説が好きなので、スタニスワフ・レムの長編からタイトルを引用していることが嬉しかったです(笑)。 ※筆者が所有する『星からの帰還』(早川書房 刊)を見せる。

あはは、すごい! いいですね!

──この小説は、宇宙探索から地球に戻ってきた乗組員が、なぜか地球の時間が127年経過していて、その間に人間の闘争心や冒険心、探究心がまったくなくなってしまったことに衝撃を受ける、という話ですね。そのテーマはあなたのこのアルバムになんらかの形で反映されていますか?

基本的には、レムのこの小説の文学的な内容に細かく準拠しているわけではなくって、雰囲気でタイトルを付けたんです。インストの曲は抽象的なものなので、曲ができてからタイトルを付けるんですね。この小説がきっかけになったのは確かですが、今回の曲の中には書き下ろしではなく20年前に書いたものも含まれているんですよ。だから、そんなに密接な関係が曲とタイトルの間にあるわけではないんです。

──なるほど。しかし2014年の『Lathe of Heaven』も、アーシュラ・ル=グィンの小説「天のろくろ」からの引用でしたね。SFからインスピレーションを受けることは多いんですか?

僕はSFが本当に好きです。SFだけから着想を得ているわけではないんだけど、さまざまな人間の思考や置かれている状況を語るという、SFの語り口とか物語のありようが好きなんです。

あと、SFの未来派的な考え方も興味深いですね。偉大なSFの中には現在の状況を扱ったものもありますが、おおかたのSFは現在や過去の事実を扱っていません。作家の想像力で未来の世界を設定して、そこで自由にはばたけるところにおもしろさがあると思うんです。

“コード楽器” 不在の意図は?

──あなたのカルテットの音楽は、きっちりと構成されているんだけどとても自由度が高い、というユニークなものだと思います。とても興味があるのは、あなたがどういう風に楽譜を書いているのか、ということです。楽譜には各パートの音符が細かく書かれているのですか? コード・ネームも書いているのでしょうか?

基本的には全パートの音を書いています。コード・ネームも書きますが、それは管楽器のヴォイス・リーディングから導き出したものなので、場合によっては変える余地もありますが、指定されている部分が多いですね。

今回の演奏メンバー。左から、ジョナサン・ピンソン(ds)、ジョー・マーティン(b) 、マーク・ターナー(sax)、ジェイソン・パルマー(tp)

──ピアノやギターといったコード楽器がないことで、まるで宇宙空間を漂うような自由さがあり、しかしコンポジションはきっちりと構築されています。コード楽器を入れない理由を教えてください。

一つの理由は作曲上の挑戦ですね。複雑な形式とハーモニーを持った曲を、コード楽器にたよらずに演奏したい、ということです。もうひとつは、オーネット・コールマンのカルテットに関わることなんです。

オーネットは70年代に入るまでコード楽器を自分のバンドに入れませんでしたよね。それは演奏上の自由をコード楽器がないことによって得たい、という考えによるもので、フリー・ジャズというフォームに最適の編成だったわけですが、僕はあえてその逆を目指しているんです。オープンな形式でありながら、構築された音楽をやりたいということです。2本の管楽器とベースによる3声のハーモニーをどうやって構築するか、という。

──60年代のマイルス・デイヴィスのバンドとの類似点も感じました。マイルスのバンドにはハービー・ハンコックという偉大なピアニストがいましたが、彼はしばしばテーマや管楽器のソロのときにピアノを弾いていません。マイルス・バンドとの共通点についてはどう思われますか?

おっしゃるとおりですね。僕らの世代のミュージシャンは60年代のマイルスを当たり前にたくさん聴いているので、影響されているのは当然ですよね。

あと、当時のマイルスの『E.S.P.』『ソーサラー』『ネフェフルティティ』といったアルバムの中の曲は、非常に複雑なハーモニーを持っているものがありますが、ハービー・ハンコックがピアノを弾いていない局面では、そのハーモニーがはっきりとした形では見えていない、という点で、僕らのカルテットと共通する部分があるんだと思います。

メロディアスなベース&ドラムス

──しばしば、ドラムスが管楽器のソロと同時に、それに対比するような形でソロをとっているようにも聞こえますね。あなたのカルテットでは、ベースとドラムスがリズム楽器としてだけではなく、メロディ楽器やコード楽器の役割も担っているように思えます。

ピアノレスの編成で、僕らの曲は〈AABA32小節〉みたいなものではなく、非常に長くて複雑なので、ベースやドラムスがリズムをキープしているだけだと、ここでの音楽をうまく表現できないんです。だからいろんなことを彼らにもやってもらう、というのが一つあります。

あと、すでに60年代からメロディ楽器とリズム楽器の役割が多様化していて、これはメロディ楽器でこっちはリズム楽器、という境界が曖昧になっている、ということもあります。僕らもその流れの中にいるわけですね。

──60年代マイルス・バンドのトニー・ウィリアムスがそうでした。

そうそう、トニーはまさにそれを60年代にやっていたんですよね。

──さて、カルテットのメンバーについてお聞きします。トランペットのジェイソン・パーマーは新加入メンバーですが、彼はどんなミュージシャンですか?

ジェイソンは炎のようなトランペッターです(笑)。クリフォード・ブラウンやブルー・ミッチェルとはスタイルは違うけど、彼らのような歯切れのいいプレイをするところが気に入っています。

彼はありとあらゆる芸術に造詣が深くて、今のアートや音楽にも深い関心を持ちつつ、過去の偉大な芸術にも詳しいんですよ。過去・現在・未来を見据えているというか。あと、彼は非常に多彩な音色を駆使できるところが素晴らしい。共演相手としてとてもいい存在ですね。

──長い付き合いの、ベースのジョー・マーティンについてのコメントをお願いします。

ジョーとは25年か30年ぐらい共演しています。このバンドでの彼は〈ピアニストのようなベーシスト〉というのかな、的確なコードを提供する存在です。ウォーキング・ラインを弾くだけでも独自の存在感を示すことができるベーシストですね。

──新しく入ったドラムスのジョナサン・ビンソンはどうですか。私は彼がウェイン・ショーターと一緒に来日したときに演奏を聴きました。

オーケストレーションが非常にうまいドラマーですね。それぞれの曲にとって適切な世界を構築できる、メロディアスなドラマーというべき存在です。あと、彼はバンドを扇動するのが非常にうまい。その意味でトニー・ウィリアムスに似ているのかもしれません。エルヴィン・ジョーンズのような大きなうねりを作るドラマーというより、トニー的な扇動に長けていると思っています。

──近いうちに日本かアメリカ、あるいはヨーロッパのどこかで、カルテットのライヴを聴きたい、と思っています。今日はありがとうございました!

こちらこそ、また!

取材・文/村井康司

マーク・ターナー
リターン・フロム・ザ・スターズ
(ユニバーサルミュージック)

〈収録曲〉
1.リターン・フロム・ザ・スターズ/Return From The Stars
2.ターミナス/Terminus
3.ブリッジタウン/Bridgetown
4.イッツ・ノット・オーライト・ウィズ・ミー/It’s Not Alright With Me
5.ナイジェリア II/Nigeria II
6.ウェイスト・ランド/Waste Land
7.アンアクセプタブル/Unacceptable
8.リンカーン・ハイツ/Lincoln Heights

〈演奏者〉
マーク・ターナー(sax)
ジェイソン・パルマー(tp)
ジョー・マーティン(b)
ジョナサン・ピンソン(ds)

〈レーベル〉
ECM Records

●アルバムの詳細はこちら

https://www.universal-music.co.jp/mark-turner/products/ucce-1191/

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