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作編曲家としても活躍するキーボード奏者の塚山エリコ。彼女が近年、リーダーとして力を入れているプロジェクトの一つが「Poppin’4」である。メンバーは渡嘉敷祐一、土方隆行、コモブチキイチロウ。いずれも大ベテランでトップクラスの巧手たちだ。
そんな Poppin’4 の新アルバム『from TOKYO』がリリースされた。本作のコンセプトは “大人のための、大人によるインストルメンタル”である。
インストも歌モノのような気持ちで作曲してます
──塚山さんが音楽の世界に入ったのは、どんなきっかけで?
祖父母が音楽教師だったので子供の頃からピアノを弾いていて、父親の影響で小学生の時にジャズが好きになりました。ジミー・スミスやグレン・ミラーなんかをよく聴いてましたね。
その後、15歳でプレイヤーとしてデビューして、作曲も始めました。それまではインストしか聴いてこなかったんですけど、歌にも興味があって、歌のようなメロディをずっと書きたかったんです。だから今も、歌のメロディを書いている感覚でインスト曲を作っていますね。
──アレンジャーに専念していた時期もあったとか。
最初はプレイヤーとして活動していましたが、演奏以外の創作にもすごく興味があったので、30歳になった時に演奏をバッサリと辞めて、編曲のお仕事に専念して。ドラマ、映画、CMの音楽や、歌謡曲とかJポップの編曲などをやってました。
──そこから再び、プレイヤーとして活動を開始した。
編曲を始めたとき、ある方に「演奏家のアレンジと作家のアレンジとは発想が違うから、演奏は一回辞めた方がいいよ」って言われて。それで、アレンジャー期間中は演奏活動を止めていました。でもあるとき “私はジャズが好きでアドリブも弾けるから、弾いてもいいんじゃないの?” ってふと思ったんです。そこからまたライブ活動も始めました。それが10年くらい前ですね。
──Poppin’4 はどんな経緯で結成したのですか?
渡嘉敷祐一(注1)さんは、以前からスタジオワークではよく一緒にお仕事をさせていただいていて、あるお仕事でご一緒したときに「私のライブでもドラムを叩いてもらえませんか?」って聞いてみたら「やるよ」って言ってくださって。それで渡嘉敷さんが土方隆行(注2)さんとコモブチキイチロウ(注3)さんも紹介してくださったんです。
その4人でライブをやってみたら、それまでにはなかったようなフィット感があって、2回目のライブをやったあたりから、このメンバーでアルバムを作ったり、自分のオリジナル曲をやってもらったらいいんじゃないかなっていう気持ちになっていきました。
注1:とがしきゆういち。ドラマー。1970-80年代“ザ・プレイヤーズ”のメンバーとして活躍し、その後もセッション・ドラマーとして膨大なアーティストたちのレコーディングやライブに参加。
注2:ひじかたたかゆき。ギタリスト。1980年代に超絶先鋭音楽集団“マライア”のメンバーとして活躍し、その後はギタリストとして多くのアーティストをサポートする他、スピッツ、エレファントカシマシ、河村隆一、SMAPなどのサウンド・プロデュースも手がける。
注3:こもぶちきいちろう。ベーシスト。渡辺貞夫、渡辺香津美、玉置浩二、小野リサ、クリヤマコトなど、様々なジャンルのアーティストたちをサポート。
メンバーに突然「ニューヨーク行きませんか?」
──2017年にニューヨークでファースト・アルバムをレコーディングしたんですね。
私ニューヨークが大好きなので、メンバーにいきなり「みんなで一緒にニューヨークに遊びに行って、ついでにレコーディングもしてみませんか?」って(笑)。
──その時にニューヨークのスタジオなどに伝手はあったのですか?
まったく無かったんですけど、ニューヨークで活動しているアキヒロ・ニシムラさんという、グラミー賞受賞作品も手がけているエンジニアの方を紹介していただいて、彼がコーディネートもしてくれて、現地のミュージシャンたちも紹介してくれました。
──当時、Poppin’4 として作りたいアルバムのイメージはどういうものだったのですか?
思いつきでレコーディングに行ったので(笑)、あまり準備もしていなかったんですけど、すでにライブでは演奏していた曲ばかりだったので、一発録りのセッションみたいな感じで、バンドっぽいアルバムにしたいなとは漠然と考えていました。1日に5曲録ったんですけど、ニューヨークのスタジオはすごく音が良くて、すごくいい気分になって、ライブをやっているみたいな感覚でした。
──ファースト・アルバムのリリース後も、Poppin’4としてのライブはコンスタントにやっていたのですか?
年に4〜5回くらいは定期的にライブをやってました。みんなものすごく忙しいのでスケジュール調整がたいへんなんですけど、皆さん忙しいなか参加してくださってます。
──そして今回セカンド・アルバムがリリースされましたが、今回の作品にはテーマのようなものはあったのですか?
メンバーとも相談して、今回はポップでわかりやすい方向で行こうと。前作はカバー曲も多かったんですけど、今回は私のオリジナル曲でまだCDになっていない曲があったのでそれを多めに入れて、あとはそれぞれのメンバーがアレンジを担当してくれた曲もあって、よりバラエティに富んだ内容になっていると思います。
──選曲やアレンジの担当はどうやって決めていったのですか?
渡嘉敷さんに選曲とアレンジをお願いしたら、スティービー・ワンダーの「You Haven’t Done Nothing」を選んでいただきました。
大野雄二さんの「Solar Samba」は私が選んだんですけど、サンバをやりたいな…と思ったら、パッとこの曲が浮かんで。コモブチさんがブラジルものが得意なのでアレンジをお願いしました。ニューヨークでの録音中にアシスタント・エンジニアさんがこのメロディをずっと歌ってたので、世界的にキャッチーなメロディなんでしょうかね。大野さんは私の師匠で、私がスタジオの仕事を始めた頃にスタジオ・ワークの基本を教えていただきました。
──土方さんのギターをフィーチャーした「Midnight Whisper」もグッときますね。
この曲のイメージは「土方さんが真っ白なタキシードを着て、後ろにストリングスがいて、最後のサビではミラーボールが回ってる」みたいな感じ。そんな演奏してください、ってお願いしました(笑)。
──アンディ・スニッツァー(注4)やミノ・シネル(注5)はどういう経緯で参加することになったんですか?
アンディは前作でホーン・セクションの一員として参加してくれたんですけど、当時から彼のファンだったので、今回もゲストとして参加してくれないかなとダメ元でお願いしたら快諾してくれて。そこから、どういう曲を彼に吹いてもらおうかと考えながら曲選びをしていきました。
ミノは、エンジニアのニシムラくんに「小物系のパーカッションが得意な人、誰かいませんか?」って聞いたら、紹介してくれたんです。すごくフレンドリーな人で、サウンド・チェックの時にシェイカーを鳴らしたらそのグルーブがすごくて。私たちのベーシックなリズムに、彼のグルーブが加わることによって、すごくブラッシュアップされました。たぶん彼だからああいう感じになるんでしょうね。あんなパーカッション奏者は初めてです。
注4:Andy Snitzer。サックス奏者。ソロ・アーティストとして活動する一方、ローリング・ストーンズ、ポール・サイモン、スティング、ビリー・ジョエルなど数多くのトップ・アーティストのサポートも務めてきた。
注5:Mino Cinélu。パーカッション奏者。フランス出身で1979年に渡米。1981年にマイルス・デイヴィスのグループに参加して注目を集め、その後ウェザー・リポート、スティングなどとも共演している。
──「Orange Sunshine」でのエレクトリック・ピアノとストリングスとのユニゾン・ソロというのは、クインシー・ジョーンズの「テル・ミー・ア・ベッドタイム・ストーリー」(注6)の手法ですよね。
注6:Tell Me A Bedtime Story。プロデューサー/アレンジャーのクインシー・ジョーンズが1978年にリリースした『スタッフ・ライク・ザット』に収録されていた、ハービー・ハンコック作曲のナンバー。ここではまずハンコックがエレクトリック・ピアノで長いアドリブ・ソロを取り、そのソロをすべて譜面に起こして、あとからストリングスがユニゾンでオーバー・ダビングするという手法で制作されており、ハンコックとストリングスが、ぴったりと合った“アドリブ・ソロ”を弾いているように聴こえる。
あの曲を初めて聴いた時は衝撃的でした。すごいアイディアで、それまでそんなもの聴いたことがなかったから “なんだこれは!? ”って。いつかああいうことをやってみたいと漠然と考えていたんですけど、「Orange Sunshine」をアレンジしていた時に “そうだ、あれをやろう”ってひらめいて。ストリングスの人は難しくてたいへんだったけど、やっていただけて良かったです。楽曲へのリスペクトというか、自分の青春のひとつとして残しておきたかったんです。
──「One Way Love」という曲ではボーカルがフィーチャーされていますね。
ボーカルのアージー・ファインさんは日本在住のシンガーです。私たちは歌伴も大好きなので、いつもの得意な部分を披露できて、今回歌モノを入れられてすごく嬉しかったんです。
音数は少なく…でも1音に気持ちを込めて
──全体的に、70〜80年代あたりの香りがするサウンドだと感じます。
その頃の音楽を聴いてきた世代なので、私たちの中に、若い頃にすごく影響を受けたり感動したサウンドというのがずっとあるんです。もちろんみんな最先端のジャズもやるし、最先端のポップスもやっているんだけど、やっぱり自分たちの青春時代のサウンドが今でもいちばんいいと思っていて、今の音楽を表現しつつも、そこは忘れたくないという気持ちがあります。
──今、シティポップとか、あの頃の音楽がまた注目を集めてますね。
今回はシティポップのインスト版みたいな感じだといえるかもしれませんね。懐かしいと感じる人もいるだろうし、若いリスナーたちにとっては初めて聴く音楽かも知れない。最近、なかなかこういうアルバムがなくて、だからこそどうしてもこういうのがやりたかったんです。
──全体の音数も比較的少ないですよね。
メロディがわかりやすくて、やっていることは実は難しいんだけど、難しく聴こえないものにしたいなと。今はテクニックがすごい人はいっぱいいるんですけど、私たちはできるだけ音数を少なくして、それでもできる限り多くを表現しようというのが、コンセプトといえばコンセプトですね。大人の説得力のある音楽というか、なるべく削ぎ取ったアレンジにしようと。
──Poppin’4 のメンバーの皆さんは、いずれもベテランなので、まとめるのはたいへんなんじゃないですか?
メンバーみんな好きな音楽は同じですけど、コアな部分になってくると、オレはこうしたいっていうそれぞれの主張があるので、そこはみんな譲らないというか、みんなが納得するまで相談して決めていきます。
──みんな、こだわりの職人ですもんね。
でもみんなやっぱり大人だし、ほんとうにいい人たちに巡り会えて、だから7年間も続けてこられたんだと思います。
──ではこのアルバムでリスナーに伝えたい思いのようなものはありますか?
Poppin’4 の音楽はメロディもはっきりしていて、でもアドリブはかなりすごいことをやっていて、それでいて全体のバランスはみんなに楽しんでいただけるようなコンパクトなジャズを目指しています。ジャズは難しいものではないし、もっと身近なものだから、気軽に楽しんでいただきたいですし、もし気に入っていただけたらぜひライブにも来ていただきたいです。ライブではもっとすごいことになってますので。
インタビュー/島田奈央子
構成・文/熊谷美広
塚山エリコ/つかやまえりこ
幼少よりピアノを弾き始め、高校在学中にプロ・プレイヤーとしてデビュー。1987年頃よりドラマ、映画、ミュージカルの音楽制作や、アーティストのアルバム制作、プロデュース、アレンジなど、スタジオ・ワークを中心に活動するようになる。2015年に“Poppin’4”を結成し、2017年にファースト・アルバム『Made In Manhattan』をリリース。その後もPoppin’4でコンスタントなライブ活動を展開し、2022年にセカンド・アルバム『from TOKYO』をリリース。
塚山エリコ公式サイト:https://www.eriko-tsukayama.com/
Poppin’4 公式サイト:http://poppin4.com/
島田奈央子/しまだ なおこ (インタビュアー)
音楽ライター / プロデューサー。音楽情報誌や日本経済新聞電子版など、ジャズを中心にコラムやインタビュー記事、レビューなどを執筆するほか、CDの解説を数多く手掛ける。自らプロデュースするジャズ・イベント「Something Jazzy」を開催しながら、新しいジャズの聴き方や楽しみ方を提案。2010年の 著書「Something Jazzy女子のための新しいジャズ・ガイド」により、“女子ジャズ”ブームの火付け役となる。その他、イベントの企画やCDの選曲・監修、プロデュース、TV、ラジオ出演など活動は多岐に渡る。
●Poppin’4 ライブ情報
6月27日(月)渋谷Jz Brat https://www.jzbrat.com/liveinfo/2022/06/
7月28日(木)神戸チキンジョージ http://www.chicken-george.co.jp/schedule/2022/07/28/1900
8月24日(水)札幌D-Bop https://www.d-bop.com/live-schedule/