投稿日 : 2022.06.24
【東京・清澄白河/GINGER.TOKYO】時代の音楽を切り口に、あらゆるカルチャーや歴史を紡いでいく人気カフェ
取材・文/富山英三郎 撮影/高瀬竜弥
「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回は清澄白河(東京都江東区)にあるカフェ『GINGER.TOKYO(ジンジャー・ドット・トーキョー)』を訪問。ここは美味しい食事が楽しめるだけでなく、店内に7インチ盤専門店や古本の販売スポットを併設するなど、知れば知るほど深みにハマる驚きのお店でした。
清澄白河を有名にしたブルーボトルよりも1日早くオープン
都営大江戸線・東京メトロ半蔵門線の清澄白河駅から徒歩約5分。コーヒースタンドを併設した美容室の2Fという場所に、カフェ『GINGER.TOKYO(ジンジャー・ドット・トーキョー)』はある。道を挟んで向かいは、三菱財閥の創業者である岩崎彌太郎ゆかりの清澄庭園という立地だ。
同店はゴハンの美味しいカフェとして、コロナ禍以前の週末は行列ができたほどの人気店。それでいて、オーナーの髙山 聡さんは音楽に精通しているだけでなく、サブカル近現代史の研究者ともいえるほど多方面に造詣が深いマニアな御人。店内には7インチ盤専門店『45rpm』も併設しているなど、ただのカフェメシ屋ではないのだ。
「2014年に江東区役所を退官して、お店の準備をしている最中にブルーボトルがオープンするという話を聞いて。これは絶対に先にオープンしたいと思い、内装屋さんなどに無理をいって、どうにかブルーボトルよりも1日早い2015年2月5日に開店しました(笑)」
髙山さんが区役所を辞めることになったのは、東日本大震災の際に避難者の受け入れ窓口を担当していたことにある。あまりの激務で心臓病を患い、フルタイムでの勤務ができなくなってしまったのだ。しかし退職届は受理されず、2年後に再び倒れたことがきっかけとなった。
「2002年頃から、老後はこのへんでカフェをやりたいなとは思っていたんです。当時はそこまで本気ではなかったですけどね」
その後、前述のとおり2015年にカフェをオープンすることになるのだが、当初は音楽をウリにする気はなかったという。
「このエリア、つまり深川界隈のローカルカルチャーを伝承するようなスポットにしたいと考えていました。音楽をコンセプトにするのは2店舗目でいいかなと思っていたんです。でも、店舗プロデューサーに相談したら、持っている強みはなんでも使えと言われて。オーディオを揃え、家にあったレコードを持ってきて音楽を流すようになったんです」
小学校4年から現在まで、各時代の最新ミュージックを愛聴してきた
1960年生まれの髙山さんは、下関から東京に引っ越してきた小学校4年生のときから、FENを中心に家で洋楽を聴きまくるという生活になったという。ソウルやファンクから始まり、T-REXでグラムロックにハマり、その後はハードロック、プログレッシブロックなど、各時代の最先端ミュージックを常に聴き込んできた。そんな音楽との接し方は約50年を経た現在まで続いており、レコード棚には最新のアルバムもしっかりと収納されている。
「20歳の頃にウォークマンが出てきて、カーステレオやコンポが登場してFMブームが起きてと、音楽が楽しいものの真ん中にあった世代なんですよ。80年代後半になってCDが出てきて買い替えたりもしたから、CDも5000枚くらいある。その後、Windows 95の登場でPCブームがきてからは音楽をデータベース化したり、そんな感じでずっと追いかけてきたんですよね」
名曲からレア盤までコンディションの良い7インチ盤が揃う
オープンして約1年後に7インチ盤専門店を始めたのも、家に膨大なストックがあったからだった。
「メディアがCDになった頃、7インチがすごく安く売られていた時期があったんです。そのときに買い漁ったものが、封も切らずに押し入れの奥にあるのはわかっていましたから。レコードブームも起きてきたので、古物商の免許を取って売ることにしたんです。7インチ盤はすごく音がいいし、もの珍しさもあって面白いですよ」
約4000枚もある7インチの品揃えは天下一品。グラムロックやハードロック、ポップスはもちろん、ジャズの名曲も豊富に揃う。音楽好きは「この曲、7インチなんてあるんだ!」「えっ、なにこれ!?」と興奮すること間違いなし。しかも、どの盤も驚くほど状態がいいのである。
「1949年製のRCAビクターのオートチェンジャー・プレーヤーが、お店のアイコンみたいになっています。7インチ盤が登場したときに作られたもので、これを見ればなぜ7インチの穴が大きいのかがわかります。連続再生の機構を作るために穴が大きいんですよ」
各年の流行、社会情勢などを踏まえ、ヒット曲が生まれた背景を研究
店内プレイ用のレコード棚には約5000枚あり、ハードディスクには約10万曲が取り込まれているが、髙山さんの真骨頂はたくさんの音楽を愛しているということではない。それらの曲が生まれた時代背景などを、統計的に俯瞰しながら探究している点にある。コロナ禍以前は、その研究成果を月に2~3回のイベントとして発表していた。
「1973年がテーマだったら、その年に発表された30曲程度を大音量でかけるだけでなく、当時のニュース、CMなどをスクリーンに流していきます。さらに、その年のビルボードチャートやオリコンランキング、主な出来事、ヒット商品、公開された映画などを資料として配布し、物事がどのように影響し合い、社会にどんなインパクトを与えたのかを紹介していくんです」
冒頭にサブカル近現代史の研究者と紹介したのは、そんな所以がある。また、オープン時にやりたかったという、深川ローカルカルチャーの伝承というのもそれらの派生として存在し、現在も家庭に眠っている古い写真を持ち寄ってもらい町の共有財産にしていく活動をおこなっている。
カフェ好きの若者から音楽・文化好きのマニアまでが自然と集う
さらに、店内は本のラインナップも充実しており、図書館のように借りることも可能だ。それだけでなく、ひと棚古本市の常設版のようなカタチで、9つの古本屋さんが出品しており購入もできるなど、あらゆる切り口でカルチャーが内包されているのである。
「昼は近所のOLさんや街歩きの人が来店されるカフェメシ屋ですよ。でも、夜になると音楽好きが集まってくる。昼はスタッフが聴きたいものをかけ、夜は私が聴きたいものを大音量でかけています。最近はスティーリー・ダンやアラン・パーソンズあたりをよくかけています。ギターの音が好きなんですよ。基本的には70~80年代が多いですかね」
語ることが多く、すべてを紹介することが困難な『GINGER.TOKYO』。これほどまで濃い背景がありながら、昼はポークジンジャー目当てのカフェ好きが集まるというのが混乱に拍車をかける。ちなみに、髙山さんは毎週金曜の20:00~(再放送は日曜の19:00~)、中央エフエム(84.0MHz)にて『さらまわし・どっと・こむ ~The Vinyl Paradise~』というラジオ番組もやられているので、そちらもぜひチェックしてみてほしい。
・店舗名 ジンジャー・ドット・トーキョー
・住所 東京都江東区平野1丁目8-1 SAN-IWAビル 2F
・営業時間 11:00~15:00(月曜~土曜)、17:00~21:00(水曜~金曜)
※営業時間が変動する可能性がありますので来店時は下記SNSをご確認ください
・定休日 日曜
・HP http://www.saramawashi.com/ginger/main.htm
・Facebook https://www.facebook.com/ginger.tokyo/