投稿日 : 2022.10.29
【東京・雪が谷大塚/SlowBoat】“正統派”ジャズをいい音で鳴らす住宅街のジャズ喫茶
取材・文/富山英三郎 撮影/高瀬竜弥
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「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回は東急池上線の雪が谷大塚駅(東京都大田区)から徒歩約5分の場所にある『SlowBoat』を訪問。ケンリックサウンドがチューンドしたJBL4331は、低音から高音までバランスがよく快適。そんな居心地のいい空間で美味しい珈琲と共に聴くジャズは最高でした。
都心へのアクセスがよく暮らしやすい街・雪が谷大塚
東京の五反田(品川区)と蒲田(大田区)をつなぐ東急池上線。歴史的には池上本門寺や洗足池といった名所への足として利用されてきたローカル線だ。そのほぼ中央に位置するのが雪谷大塚駅。現在は郊外の住宅地と知られるこの街に、2019年9月にオープンしたのがJazz & Cafe『SlowBoat』である。
「ここは更地から住宅兼店舗として建てました。不動産屋さんに紹介された当初は、人通りの少ないマイナーな場所だと感じたのですが、休みの日に歩いてみると賑わいもあって、ここなら隠れ家的な要素もあり、ジャズを聴くにはちょうどいいかなと思いました」
そう語るのは店主の砂原勝範さん。1958年大阪生まれの大阪育ち、60歳の定年を機に同店をスタートさせた。砂原さんはサラリーマン時代もずっと関西だったが、定年前の56歳で東京へ転勤となり、そのままこの地に居を構えたという。
大学時代は京都のジャズ喫茶『しぁんくれーる』でアルバイト
「大学時代は京都で、ジャズ喫茶『しぁんくれーる』でアルバイトをしていました。同時期にジャズ喫茶『Phoonjalarm』の2階に住んでいたこともあったりと、ジャズにどっぷり浸かっていましたね」
『しゃんくれーる』は京都のジャズ喫茶の草分け的な存在と知られ、オーナーは海外の大物ジャズマンたちとも交流があり、来日時は彼らがお店に訪れることもあったという。砂原さんはレコード係としても活躍したが、大学卒業後はジャズをゆっくりと聴く時間も減ってしまう。しかし、仕事帰りにジャズ喫茶やジャズバーに通うなど愉しみは続けていた。そんな砂原さんが音楽を熱心に聴くようになったのは中学時代。
1950~60年代の正統派ジャズがかかる店内
「中学で吉田拓郎などを聴くようになって、高校時代は関西フォークの全盛期。ジャズに興味が生まれたのは、ザ・ディランIIを解散後に出した大塚まさじさんのソロアルバムです。ジャズの要素が入っていて、4ビートの魅力を知りました。そこからブルーノートの1500番シリーズを入口として、チャールス・ミンガスやエリック・ドルフィーなど、1950~60年代のジャズを聴き尽くしていった感じです。チャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーのようなビバップや、中間派と言われるジャズも大好きです」
『SlowBoat』で流れるのは、1950~60年代の正統派ジャズが中心。そこで、お店を象徴する3枚をお願いすると、(写真左から)チャールズ・ミンガス『MINGUS』、アート・ペッパー&テッド・ブラウン『 Free Wheeling 』、ケニー・ドーハム『Quiet Kenny』が選ばれた。
「店名の由来になったのは、スタンダードナンバーの<On a Slow Boat to China>ですが、私が一番好きなのはこのアルバム(写真中央)に入っているものなんです。アート・ペッパーが好きだということもありますね」
ケンリックサウンドのJBL4331によるクセのない澄んだサウンド
楽曲はもちろん、学生時代に読んでいた村上春樹『中国行きのスロウ・ボート』からのインスパイアもあり、店名はすぐに決まったという。お店ではアルバムの片面ずつをかけ、お客さんの雰囲気を見ながら選盤をし、リクエストがあれば対応していく。レコードの多くはオリジナル盤またはそれに近い音質のもので揃えており、自慢のオーディオで美しく響かせる。
「スピーカーはJBL4331をベースにした、ケンリックサウンドのチューンドモデルです。プリメインアンプはアキュフェーズのE-370、プレーヤーはヤマハの5000番に音のエジソンのモノラルカートリッジ(オールド)、デノンのM900にはデノンのステレオカートリッジ(DL-103)を付けて使い分けています。このお店を始めるにあたって買ったのはスピーカーだけ。セッテングしてみて相性が悪かったら再考しようかと思いましたが、結果的に求めていた音になりました。ケンリックサウンドは、低音の歯切れがよくて聴き疲れしない点が気に入っています」
聴かせてもらうと、驚くほど音が澄んでいて滑らか。低音と高音のバランスが完璧なサウンドに酔いしれてしまう。気づけばうっかり長居してしまうような、心地よい空間であることは間違いない。スピーカーの中央に置かれた和箪笥もまた存在感があり、空間を彩るエッセンスとなっている。
昭和のジャズ喫茶を手本とした王道のスタイル
「手本にしているのは昭和のジャズ喫茶。音楽をじっくりと聴き込んでいただければと思います。私語厳禁にはしていませんが、静かにお過ごしていただくようお願いをしています。開店当初は60~70代のジャズ喫茶好きの方が多かったですが、最近は音楽好きのご近所の方も増えました。若い女性がひとりで来られて本を読まれたり、想像以上にいいお客さんが多くて感謝しています」
店内は珈琲や紅茶を中心に、ビールやウィスキーなどもラインナップ。日によってケーキが置かれることもあるが、食事のメニューはなく砂原さんがワンオペで対応している。
「このまま長く続けられればと思っています。好きな音楽をかけながら、ジャズが好きな人たちと交流できるのはサラリーマン時代にはない楽しみですね。常に新しい発見があります。近所の若い方にも来て欲しいですし、ジャズ好きで耳の肥えた方にも納得いただける音質・選曲を目指しています」
・店舗名 ジャズ&カフェ スローボート
・住所 東京都大田区南雪谷1-3-16
・電話 03-6421-8193
・営業時間 13:00~21:00
・定休日 毎週月曜、第1・3火曜
・HP https://www.slowboat.jp/
・Twitter https://twitter.com/SlowBoat16