これから楽器をはじめる初心者から、ふたたび楽器を手にした再始動プレイヤー、さらには現役バンドマンまで、「もっと上手に、もっと楽しく」演奏したい皆さんへ贈るジャムセッション講座。
ジャムセッションとは何か? どうすれば参加できるのか? どれくらいの技量が必要なのか? そんな「ジャムセッションの基本事項」をこれまでの回で学んだライターの千駄木(当連載の主人公)。いよいよ次は実際の現場を見てみたい…が、その前に。「ジャムセッションができる店」を下調べして、担当編集者にプレゼンしてみた。
【今回の登場人物】
編集者 ヤマシタ
本誌編集者。40代男性。ライター千駄木とともに当連載企画をスタート。音楽はジャンルを問わずなんでも聴く。学生時代にファンクバンドでドラム経験あり。ライター千駄木に無理難題を吹っかけて楽しむ悪人。
千駄木 雄大(せんだぎ ゆうだい)
ライター。29歳。大学時代に軽音楽サークルに所属。コロナ禍でステイホーム中、久々にギターを触りジャムセッションに興味を持つ。セッションに参加して立派に演奏できるようになるまで、この連載を終えることができないという十字架を背負っている。最近本が出ました。
週3でジャムセッションやってる店
編集ヤマシタ 本題に入る前に千駄木くん、最近、著書を出したんだって?
千駄木 はい。『奨学金、借りたら人生こうなった』(扶桑社新書)って本なんですけど…。
編集 そういうのさぁ、ウチでも書いてよ。『ジャムセッション、やったら性格こうなった』みたいなやつ。
千駄木 いや、それがまさにこの連載ですから。セッションで酷い目に遭って性格を曲げたくないので、いま必死で勉強してますよ。
編集 そんなわけで前回は、プロのジャズミュージシャンである納浩一さんをお招きして “ジャムセッションの基本事項”を教えてもらったんだよね。で、今回はさらに一歩進めて “どんな店があるのか?”ってテーマだ。調べてきた?
千駄木 はい、以前に納浩一さんからいくつかアドバイスをもらって。まずは「自分が住んでいる街+ジャムセッション」で検索してみるといいよ、と言われたので、そこから調べました。
編集 で、どうだった?
千駄木 意外にも結構ありました。それで、どんどん範囲を広げて調べてみると、東京都内にはかなり多くの「ジャムセッションができる場所」があることが分かりました。
編集 東京はほとんどの駅にライブハウスがあるし、音楽好きな店主が経営するカフェやバーもたくさんあるからね。
千駄木 ただ、店によって「ジャムセッションは月に1回で、あとはライブ」とか「毎週◯曜日はジャムセッションデーで、ほかの日はバー営業」というように、“ジャムセッションは不定期” というお店が多いようです。
編集 さすがにジャムセッションに特化した店ってのは少ないよな。
千駄木 そんな中でも、特に積極的に実施している店を選出してみました。目安として「ジャムセッションの日」を週に3日以上設けている店をいくつか紹介します。
“盛り場”に点在するジャムセッション道場
千駄木 まず、ジャムセッションに関するいろんなサイトを見ていて、必ず出てくるのが錦糸町にある「Jazzセッション Cafe J-flow」です。
編集 錦糸町というと、城東(皇居の東側エリア)地区にあって、墨田区の中ではいちばん大きな繁華街を擁する町。飲食店がひしめき合っているイメージあるね。
千駄木 ここは2009年にオープンしたお店で、ほぼ毎日のようにジャムセッションを開催しています。セッションでよく使われる譜面集 “黒本”をベースに、ジャズのスタンダードを中心に演奏しているみたいなので、初心者でも参加できそうです。料金も、その日のチャージ(2000円前後)+1オーダー(メニュー)なので、まあ平均的な価格だと思います。
編集 駅からちょっと距離があるね。でかい楽器を持ち運ぶ人は大変かもな。
千駄木 今回紹介するお店は、基本的にピアノやドラムセット、コントラバスは常備されています。ちなみにこの店では(コロナ前は)トランペットやフルートも貸し出していて、楽器のレンタルやメンテナンスも行き届いているようですよ。
編集 仕事帰りに手ぶらで訪問することも可能だ。
千駄木 そうですね。楽器によっては可能です(※詳しくは事前に確認のこと)。たとえば出張で東京に来た際に、ふらっと寄って演奏する人もいるみたいですね。あと、初心者向けのワークショップや楽器ごとの講座も定期的に開催されています。
編集 へぇ〜、ここはかなりセッション特化型の施設だね。錦糸町ってのが意外だったけど。
千駄木 このエリアには、もう一軒あるんです。それが「ジャズ38オルガンクラブ」。
●ジャズ38オルガンクラブ
東京都葛飾区亀有3-30-2 コーポ大郷1階
℡ 080-6803-0932/03-3690-8363
編集 創業は1968年か。老舗だね。
千駄木 金土日の夜はライブをやっていて、平日の昼間に “ランチセッション”なる催しが行われています。
編集 ランチセッション?
千駄木 火曜から金曜の昼間(13:00〜16:00)に行われているセッションで、文字どおりランチメニューが用意されています。
編集 あ、ホントだ。パスタとかカレーとかピザとかあって…美味そう。
千駄木 ですよね。セッション演奏をBGMに、普通に昼ごはん食べてるお客さんもいるんじゃないですかね。セッション参加者は、3500円(チャージ2500円+2ドリンク)で、譜面は曲各3枚持参するシステムのようです。ここなら演奏ではなく聴きに行くだけでもいいかもしれないですね。
編集 キミにはいつかちゃんと演奏してもらう予定だけどね。
千駄木 ……はい。
フュージョン、ブルース、ボサノヴァも
千駄木 東京の東側エリアにはジャムセッションができるお店がほかにもあって、たとえば2010年にオープンした小岩の「バック・イン・タイム」。
●バック・イン・タイム
東京都江戸川区南小岩8-16-4
℡ 03-3659-0351
編集 ホームページを見ると、かなりいろんなジャンルのイベントをやっているね。「ブルース・ロック系ジャムセッション」とか「フュージョン系ジャムセッション」なんて魅力的じゃん。
千駄木 ノーチャージで、ジャンルも形態も問わない「オープンマイク」という催しもやってますね。あと「35曲限定ジャム・セッション」とか。
編集 あらかじめ曲数を絞れるのは初心者にも嬉しいね。
千駄木 “35曲限定”の中にはジャズのスタンダードだけではなく「上を向いて歩こう(坂本九)」とか「丸の内サディスティック(椎名林檎)」も含まれているので、ポップスを歌いたい人にとっても嬉しい趣向ですよね。
編集 カラオケ感覚で参加すると怒られるけどね。
千駄木 そうでした。以前、納さんに釘を刺されましたね。あと、僕にぴったりの「初心者向けジャムセッション練習会」ってプログラムもあるんです。
編集 “ジャムセッションに参加するための事前練習” がプログラムとして成立してしまう。ってところに、この世界の闇の深さを感じるな。
千駄木 闇の深さじゃなくて、見晴らしのいい高みがあるってことですよ。そこに到達するための入り口がこの練習会ですから。
編集 お前すっかりジャム教の信者になってるじゃないか。あんなに嫌がってたくせに。
仕事帰りにビジネス街で演奏
編集 他の地区にはどんな店があるの?
千駄木 不定期で開かれることが多いようですが、中央線沿線の西側にジャムセッションのお店が多かったですね。
編集 ああ、わかる。“中央線の沿線”って、ジャムセッションと馴染みが深い気がする。勝手なイメージだけど。
千駄木 それって郊外をイメージしてませんか? 都心にもあるんですよ。たとえば水道橋(中央・総武線)にある「東京倶楽部」とか。
ここは水道橋だけでなく本郷と目黒にも拠点を持っていて、各店でほぼ毎日のようにセッションやクリニックが行われています。ボサノヴァのセッションもやってるみたいですね。
●東京倶楽部
【目黒】東京都品川区上大崎2-18-20 中銀目黒駅前マンション地下1階/℡ 03-6417-0166
【水道橋】東京都千代田区神田駿河台2-11-16 さいかち坂ビル地下1階/℡ 03-3293-6056
【本郷】東京都文京区本郷3-31-3 本郷スズヨシビル地下1階/℡ 03-6801-8322
編集 3か所ともビジネス街だけど、地下にそんなお店があったとはな……。
千駄木 水道橋と本郷は学生街でもありますからね。若いお客さんも結構いるんじゃないですかね。
編集 ほかにジャズやボサノヴァ以外の演奏ができるお店ってあるのかな。
千駄木 池袋にある「SOMETHIN’ Jazz Club」ではファンクやフュージョンのセッションもあるようです。ここはふらっと立ち寄って演奏するだけではなく、月額1万2000円払えばサブスクで通い放題らしいです。
●SOMETHIN’ Jazz Club
東京都豊島区池袋1-8-8 池袋労働基準協会ビルB1・B2
℡ 090-3875-1320
編集 サブスク! いいかもね。ジャムセッションって自発的に通うものだけど、一度くじけてしまうと足が遠のきそう。って考えると、月謝を払うというスタイルは上達しやすいのかもしれない。
千駄木 この(池袋)近くだと、巣鴨に「ムーングロウ」というお店もあります。
編集 ジャズとクラフトビールも楽しめる店なんだね。
千駄木 平日のお昼、ほぼ毎日のようにボーカルセッションが行われているのも特徴です。
編集 ボーカルを前面に出してる店は珍しいね。
千駄木 お店のホームページには「感染予防のため、マイクをお持ちの方はご自身のマイクを持参していただくことを推奨しております」って書かれていますよ。
編集 コロナ以降、ボーカリストは “マイ・マイク” が常識になってるのかもね。
有名“ジャズスポット” で激ギレされる
編集 週に3日以上セッションやってる店って結構あるんだね。しかも各店それぞれ魅力的な特徴を持っている。そんななかでも、いちばんレベルが高いっていうか有名な店はどこなの?
千駄木 これから紹介する、高田馬場の「Jazz Spot イントロ」です。
編集 ああ、知ってる。50年近く営業している老舗だよね。以前に納さんのインタビューでも出てきたよな。
千駄木 はい。今回紹介しようと思って、営業時間などの詳細を聞こうと店に電話したら、めちゃくちゃ怒鳴られました……。
編集 はぁ? ジャズバーに電話してキレられることとかある?
千駄木 最初にホームページの問い合わせフォームからメールしてみたのですが、何度もエラーが出て。その後、お店や事務所にガンガン電話かけたんですが、タイミングが悪かったのか出てもらえず。
すると数日後にオーナーさんから電話がかかってきて「おい! 何度も電話してくるお前は何だ! セールスか? もうかけてくるな!」と一方的にキレられまして。
編集 あははは! 怖いねぇ。“昔気質のジャズ親父”って感じだ。それで、どうなった?
千駄木 丁寧に事情を説明して、ようやくわかってもらえました。その時に「納浩一さんに教えてもらって連絡しました」って話したら、「何? あんたオサムちゃんの知り合いか? それ早く言ってくれよ、取材でもなんでもOKだから、いつでも来ていいよ」と、一気に心を開いてくださって。
編集 やっぱ納さんってすげーな。この連載スタート時、最初に味方になってもらって本当に良かった。それにしても、“気風のいい名物オヤジ” が切り盛りしている店って、いかにも老舗のジャズスポットって感じだよね。
千駄木 「イントロ」といえばジャムセッション界隈では最も有名な店のひとつですからね。演奏レベルも高くて、プロやセミプロ級のプレイヤーもよく参加してるらしいですね。
編集 せっかく「いつでも来なよ」って言ってもらえたんだから取材してみようか。とりあえず現場行ってレポート書いてみてよ。あ、オーナーさんの話も聞いてきてね。
千駄木 いやいや、電話口でめちゃくちゃキレられた人に会いに行くのは嫌ですって!
編集 和解したんだろ?
千駄木 そうですけど、また僕が変なこと言っちゃって「てめ、セッションなめてんのか!」とか怒られそうで…。
編集 大丈夫、ヤバくなったらオジキ(納さん)の名前出しときゃ何とかなるって。あと、せっかくだから楽器も持って行ってよ。
千駄木 ステッカーがペタペタ貼ってある “痛ギター” では参加できないですって!
編集 じゃぁ、剥がせよ!
というわけで、続きは次回「Jazz Spot イントロに行ってみた!」
ライター千駄木が今回の取材で学んだこと
① まずは「自分が住んでいる街+ジャムセッション」でググれ
② 昼間にセッションやってる店もある
③ ジャズ以外のセッションも結構ある
④ ジャズバーにはガンガン電話するな
⑤ 今後も納浩一さんの援助に甘えよう