投稿日 : 2022.12.29

【2022年ベスト】ジャズ アルバム BEST 50

JAZZトランペット
2022年「ジャズ」アルバム BEST50
2022年にリリースされた “ジャズ系” 作品の中から50作をセレクト

構成・文/土佐有明

桑原あい ザ・プロジェクト|Ai Kuwabara The Project
『Making Us Alive』

石若駿とのデュオ作もあるピアニストの桑原あいが、デビュー10周年を記念してリリースしたライヴ盤。2022年4月から7月に行ったライヴのベスト・テイクを収録。昨今の活動の中心である鳥越啓介(b)、千住宗臣(ds)とのレギュラー・トリオ=桑原あいザ・プロジェクト名義での作品だ。桑原は自身のオリジナルの他、クラシックやロック、ソウルなどをハイテンションで演奏しており、主張の強いリズム隊に真っ向勝負を挑んでいるかのよう。


魚返明末&井上銘|Ami Ogaeri &Mei Inoue
『魚返明末&井上銘』

東京藝大出身の魚返明未(p)と、CRCK/LCKSなどでも活躍する井上銘(g)のデュオ作。ピアノとギターのデュオというと、どうしてもジム・ホールとビル・エヴァンスの『アンダーカレント』を想起してしまうのだが、こちらの演奏はもう少し抑制が効いていて、行間から滲み出るリリシズムにうっとりさせられる。魚返はソロ作『Solo Live at Lydian[part-2]』などもリリースした俊英。もっともっと評価されて然るべき鍵盤奏者だと思う。


アミール・ブレスラー|Amir Bresler
『House of Arches』

Amir Breslerアミール・ブレスラー

アヴィシャイ・コーエン、シャイ・マエストロ、ニタイ・ハーシュコヴィッツといったイスラエル出身のミュージシャンの作品でドラムを叩いていたのが、アミール・ブレスラー。そんな彼の2枚目のソロ作は、ポリリズムを自然に織り込み、アフロビートに接近した作風。晩年のトニー・アレンのプレイからの影響もあったのだろう。リリースはリジョイサーが主宰するロウ・テープスから。ストーンズ・スロウやブレインフィーダーと並ぶ要注意のレーベルだ。


アンドレア・モティス|Andrea Motis
『Loop Holes』

Andrea Motisアンドレア・モティス

バルセロナ出身のシンガー/トランペット奏者の最新作。これまで培ってきたジャズやブラジル音楽の素養に加えて、ファンクやネオ・ソウルが加味されたアルバムで、落ち着き払ったヴォーカルは色気と艶っぽさを増している。トランペットはチェット・ベイカーにも通じる繊細な響きだが、本作では彼女独特のヴォイスが貫き通されており、頼もしいことこの上ない。ロイ・ハーグローヴのバンドのドラマーだったグレッグ・ハッチンソン、BIG YUKIも参加。


アンテローパー|Anteloper
『Kudu + Pink Dolphins (Special Edition)』

Anteloperアンテローパー

アンテローパーは、トランペットのジェイミー・ブランチとドラマーのジェイソン・ナザリーによるデュオ。本盤は新作と2018年のアルバムを加えた日本限定盤で、プロデューサーはトータスのメンバーでもあるジェフ・パーカーだ。根っこにあるのはフリー寄りのジャズだが、ノイズや電子音を挿入したり、エフェクトを深くかけたりと、音響的な側面の練り込みが秀逸。混沌としたプレイに電化時代のマイルス・デイヴィスを想起するリスナーも多いだろう。


アリ・ホーニグ・トリオ|Ari Hoenig Trio
『Golden Treasures』

Ari Hoenigアリ・ホーニグ

NYに居を構えるドラマーのピアノ・トリオ作品。イスラエル出身のガディ・レハヴィがピアノを弾き、同じくイスラエル出身のギタリスト、ヨアヴ・エシェドも2曲に参加している。ホーニグはここぞというところでタムを巧く使用し、全身で歌っているようなスウィング感を醸す。ピアノやベースを背後から煽り建てるような場面も聴きどころ。掉尾に置かれたソニー・ロリンズ「ドキシー」のカヴァーは、なんと完全なドラム・ソロ。


アヴィシャイ・コーエン|Avishai Cohen
『Naked Truth』

Avishai Cohenアヴィシャイ・コーエン Naked Truth

テルアビブ出身のトランぺッターが率いるカルテット作品。過去作では攻めの姿勢での演奏が目立ったが、本作は地に足がつき、落ち着き払ったサウンドが目立つ。特にスローなバラードは官能的で艶やか。脂の乗り切った中堅ならではのプレイ、とも言えるだろう。掉尾には、英語でのポエトリー・リーディングが置かれる。なお、同姓同名のイスラエル人ベーシストも存在するが、こちらはトランペット奏者のほうのアルバム。ご注意を。


アヴィシャイ・コーエン|Avishai Cohen
『Shifting Sands』

Avishai Cohenアヴィシャイ・コーエン shifting sands

イスラエル出身のベーシストのアルバム。ピアノにアゼルバイジャン出身のエルチン・シリノフを、ドラマーにロニ・カスピを登用し、新体制で臨む初の作品だ。ドラマーの交代により疾走感が増した印象で、饒舌なピアノが前へ前へと出るのも頼もしい。リーダーのコーエンはやや控えめのプレイにも聞こえるが、新メンバーを立てようという心境だったのかもしれない。また、コンポーザーとしてのコーエンらしさは不変で、翳りと憂いを帯びた旋律に惹かれる。


ビョルン・マリウス・ヘッゲ|Bjørn Marius Hegge
『Beyond Your Wildest Streams』

Bjørn Marius Hegge 『Beyond Your Wildest Streams』ノルウェーのベーシストでコンポーザーのビョルン・マリウス・ヘッゲは、現地では既に名声を得ているミュージシャン。17年にはノルウェーのグラミー賞にあたるスペルマン賞を獲っている。基軸となるのはハード・バップだが、フリー風に蛇行する場面などは、かつての新主流派に一脈通じるところも。かつ、音圧が高くロック的なダイナミズムを有しているあたりは、同郷のアトミックのサウンドに近いところも。ロック・フェスにも出て欲しいところだ。


ブラッド・メルドー|Brad Mehldau
『Jacob’s Ladder』

Brad Mehldauブラッド・メルドー

グラミー賞常連の大御所ピアニストが、プログレッシヴ・ロックからの影響を衒いなく、ストレートに放出した異色作。元々メルドーは、電化時代のマイルス・デイヴィスやウェザー・リポート、マハヴィシュヌ・オーケストラなどが門戸となってジャズへと傾倒していったそう。そして、メルドーは本作で、その当時の記憶を手繰り寄せ、辿ってきた道程を歩みなおしているかのよう。メリアナでの盟友、マーク・ジュリアナのタイトなドラムがアンサンブルを引き締めている。


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