投稿日 : 2022.12.29
大和田俊之(慶應義塾大学教授)が選ぶ「2022年のベスト」3作品
大和田俊之
慶應義塾大学教授(ポピュラー音楽研究)
専門はアメリカ文学、ポピュラー音楽研究。『アメリカ音楽史』(講談社)で第33回サントリー学芸賞(芸術・文学部門)、『アメリカ音楽の新しい地図』(筑摩書房)で第34回ミュージック・ペンクラブ・ジャパン音楽賞ポピュラー部門著作出版物賞受賞。他に編著『ポップ・ミュージックを語る10の視点』、長谷川町蔵との共著『文化系のためのヒップホップ入門1、2、3』(アルテスパブリッシング)、また『山下達郎のBRUTUS SONGBOOK』では解説を担当した。
Moor Mother『Jazz Codes』
自らの手法を「ブラック・クォンタム(量子)・フューチャリズム」と呼ぶ詩人で実験音楽家、ムーア・マザー。「規則」とも「暗号」とも読めるCodeをタイトルに付した作品は、アブストラクトなビートにハープやサックス、グリッチ音などを散りばめ、そのサウンドを掻い潜るように彼女を中心とするコレクティヴなスポークンワードが響き渡る。
大石晴子『脈光』
R&Bやジャズの影響を色濃く感じさせるシンガーソングライターの初アルバム。ときにはぐれそうになりながら、突然見慣れた風景が広がるかのように既知と未知を軽やかに往復する唯一無二のソングライティング。空間とその溶解を感じさせるアレンジと音響、儚さが心地よく響く声が魅力的な傑作。
plantar『Forest, Sea, Harmony』
カメラ=万年筆、Orangeadeなどでの活動、また婦人倶楽部のプロデューサーとしても知られる佐藤望のソロプロジェクト。ピアノ(壷阪健登)、アルトサックス(大石俊太郎)、バスクラリネット(篠塚恵子)による室内楽作品。それぞれの楽器の重なり合い、その豊かさと静けさと陰影が自然の幾何学性ともいえる感触を醸し出す。