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これから楽器をはじめる初心者から、ふたたび楽器を手にした再始動プレイヤー、さらには現役バンドマンまで、「もっと上手に、もっと楽しく」演奏したい皆さんに贈るジャムセッション講座シリーズ。
今回は記者が自分のギターを持って「初心者向けジャズギター・セミナー」に参加。行き先は東京都江戸川区、小岩にある「ライブ カフェ BACK IN TIME」である。
【本日の現場】
BACK IN TIME(バック・イン・タイム)
2010年にオープンしたジャズ&アコースティック系のライブ・カフェ(ライブハウス)。ライブだけではなく、ジャムセッション、ワークショップ、初心者向けセミナー、オープンマイクなど、さまざまな取り込みを行っている。料金の基本設定は、ライブやセッションごとにホームページ記載のチャージ料金+1オーダー制。●東京都江戸川区南小岩8-16-4【取材記者】
千駄木 雄大(せんだぎ ゆうだい)
ライター。30歳。大学時代に軽音楽サークルに所属。基本的なコードとパワーコードしか弾けない。セッションに参加して立派に演奏できるようになるまで、この連載を終えることができないという十字架を背負っている。最近オーディオインターフェイスを購入して、「宅録」の環境ができたのだが、同時に買ったDJ用ターンテーブルやMIDIキーボードに夢中で一向にギターをつないでない。
筆者はどの程度の「初心者」か
この連載が始まって約1年が経ち、ついに実践編に突入である。今回は「初心者向けジャズギター・セミナー」に参加。初めての経験なので戸惑うばかりだ。
現場のレポートを書く前に、まず筆者のギター歴を振り返っておこう。学生時代はスマッシング・パンプキンズやINUをコピーするような軽音楽部に所属して、主にギター・ボーカルを担当。ただ、「弾きながら歌うのが難しすぎる」と思うようになり、徐々にボーカル専門に移行(というか、弾けないから逃げていた)。
その結果、演奏歴に対してギターの腕前はロクに向上していない。オープンコードやパワーコードを押さえながら歌うことはできるが、リードやソロはほとんど弾いてこなかったのだ。そのため今回のような、アドリブが演奏の肝になる “ジャムセッション” に参加することが恐ろしくて仕方がない。スケールも知らなければ、フレーズを弾く指も追いつかない。単純に、知識も技量も足りていないのだ。そもそもナインス・セブンス・シックスのテンションコードが覚えられない。
そんな状態での参加である。今回のセミナーが、どの程度の「初心者」を想定しているのかが分からないが、とにかくやってみよう。災害級とまで言われる猛暑のなか、ギターケースを背負って現場に向かう。背中は汗びっしょりだ。気温のせいではない。不安と恐怖で、嫌な汗がダラダラと染み出しているのだ。
“痛ギター男” の凡ミスでスタート
今回の現場「BACK IN TIME」は、JR小岩駅南口から徒歩5分ほど。店内はこれまで訪問したジャムセッションの場と異なり、メタリックでインダストリアルな雰囲気。どちらかというとロックな趣だ。
セミナーが開催されたのは土曜日。参加者は自分を含めて7人いる。文字通り、老若男女が集まっており、ほとんどが年季の入ったフルアコースティックギターやセミアコースティックギターを抱きかかえている。いかにもジャズギタリストという感じでカッコいい。筆者のギターはレスポールなので場違いとも思えないが、ボディに寺山修司の『書を捨てよ、町へ出よう』のステッカーが貼ってある “痛ギター” なので、明らかに浮いている。
とはいえ、すでに風貌から浮いているので、ギター云々の問題でないことは承知だ。周囲にどう思われようと、誰に何を言われようと、動揺することはない。
そこに本日の講師でもある店主の梶川朋希(かじかわ ともき)先生が登場。早々に、チューナーを持ってきていないことを軽く注意され、激しく動揺する。
「きちんとチューニングされていないと、共演者も観客も不快ですからね。気をつけましょう」
いろはの “い” だ。さすが初心者向けの教室。冒頭からこんな基本的なことが話題になるのである。といっても、そんなミスを犯したのは筆者だけだが。
意識すべきは「適正な音量」
セミナーの参加者は梶川氏に配られたシールドをそれぞれ自分のギターに挿してアンプから音を出す。7人もいるが、かなりクリーンに自分の弾いているギターの音がよく聴こえる。準備が整うと、先生が言う。
「みんなで同時に音を出すのは非常に大切なことです。なぜなら、自分が “どの程度の音量で弾けばよいのか” をジャッジできるようになるから」
なるほど。独りよがりはダメ。共演者との関係を意識しながら演奏せよ、ということだ。そして先生はこう続ける。
「ステージに立ってアンプから聴こえる音は、果たして観客にとっても適切な音量なのか。そのことも常に意識しなければなりません。つまり “自分が心地よくて弾きやすい音量” は、必ずしもみんなにとって適切な音量というわけではない、ということです」
筆者は思わずツマミを絞った。これ以上の悪目立ちは避けなければならない。続けて、この日のセミナーの楽譜が配られる。譜面(TAB譜)には「Aマイナー・ペンタトニック・スケール」を基調とした6つのフレーズが載っている。
まずは4弦7フレットのラ(A)を起点とした、8分音符のフレーズの練習からスタート。4弦のラ(A)、3弦のド(C)、レ(D)、ド(C)と順序よく、オルタネイト・ピッキング(アップダウン)で弾いていく。テンポは80なので、無理なく弾ける難易度だ。
「足や体でリズムを取ることが大切です。あとは、猫背にならずに、背筋を伸ばして視線は譜面、左手、右手を俯瞰して見られるようにしましょう。特に右手を見るように心がけて、『自分がどの弦を弾いているのか?』をしっかり認識する。そうすれば、弦を弾き間違えることは減りますよ」
さらに、1音足して3連符を弾いていく。ちょっとだけ難易度が上がる。その次は16分音符という具合にリズムチェンジの練習だ。さすがに16部音符になると指が追いつかないが、参加者はみんなスラスラと弾けている。やはり俺がいちばんの初心者だった…。
「ゆっくり弾く場合はコードを押さえておくのもよいですが、スピードが要求される際、左手は一音ずつ指を動かすべきです。たくさん指を動かすと、なんだかロスしている気持ちになると思いますが、むしろ動かさないと早く弾くことはできません」
そして、ここまで習った「8分音符→3連符→16分音符」のフレーズを連続して弾いていく。特に難しいフレーズではないのだが、一音、また一音と増えていき、さらにリズムも変わるので、徐々に指が追いつかなくなり悲しくなる。が、少し嬉しくもある。いま自分はどの段階にいるのか、それが明確にわかったからだ。もっと弾けるようになるために「これから何をすべきなのか」がよくわかった。そんな嬉しさである。
結局、16分音符のフレーズを弾けないまま「5連符→6連符→32分音符」と弾くフレーズの難易度は上がっていき、とうとう指が動かなくなった。ボイスレコーダーで、この日の録音を聴き直してみても、最後のほうはギターなのにペチャペチャ鳴っていた…。
ジャズのコードは3音だけでいい?
リズムチェンジの練習が終わると、今度はジャズで使うコードのレッスンだ。新たに配られた譜面には「Cmaj7、C7、Cm7、Cm6、C6、C+」という、ルート音(コードの基礎となるベース音)がCの、6つのシックス・セブンス・コードが載っている。
どのコードも指で押さえるのは3つのため、そこまで難しくはなさそうだが、ロックではほとんど目にすることのないコードである。押さえ方を覚えるので精一杯だ。
「ジャズのコードは3つの音を弾くだけでよいのですが、やはり何の音を弾いているのかは明確に理解するべきです。例えば Cmaj7(Cメジャーセブンス)の『ド・ミ・シ』の場合、まず1弦と2弦は使いません。5弦か6弦でベース音の『1度』のド(C)を弾き、3弦と4弦で『3度』のミ(E)と『7度』のシ(B)を弾いて、『5度』は省略します。これをスモールコードといいます」
といった具合に、解説と実践を交えながらレッスンは進んでいく。先生は “どの指でどの弦を押さえるべきか” まで教えてくれるが、筆者はまだ押さえる位置すら覚えていない。3度と7度が半音をズラすことでコードも徐々に変化していくことは理解したが、今度は押さえる指が伸びない…。といった具合に、課題がどんどん明確になっていく。いい感じだ。
とはいえ合同レッスンである。筆者ひとりが先生の手を煩わせるわけにもいかないし、みんなの足を引っ張るのも避けたい。そう思いながら必死な思いで弾いていると、あっという間に1時間が経過。ここでセミナーの前半が終了である。
ペンタトニックとリズムの重要性
今回のレッスンは前半と後半に分かれており、参加者は前半から誰ひとり離脱せず、そのまま全員参加で後半がスタートした。
新たに「Cマイナー・ペンタトニック・スケール」の譜面が配られる。ここでも先生のギターに合わせて、参加者たちは一緒に弾いていく。途中、こんなアドバイスも。
「ギターという楽器は家で自由に弾けます。そういう意味では “練習する時間” を確保しやすい楽器です。ところがそうした練習の際、いちばん疎かになるのが “リズム” です。ひとりで何となく弾いていると、自分の感覚や手癖だけで弾いてしまいがちですからね。ぜひ、メトロノームやリズムマシーンに合わせて練習することをお勧めします。最近はスマートフォンでも、テンポを保つアプリなど便利なツールがありますから」
いつでもどこでも気軽に弾ける。これはギターの利点だが、ひとりで何となくダラダラ弾き続けると悪い癖も身についてしまう。筆者のような初心者はなおさらだ。しかも楽器の特性上、メロディや和音の “響き” にばかり気がいってしまう。先生の言う「ギターはビート感やリズムの練習がおろそかになりがち」という話は本当によくわかる。
また、“どの音から弾き始めればスケールが変わるか” といった、音の関係性や仕組みを理論的に教えてもらえたのは、筆者にとって大きな学びになった。弾く場所を一音変えるだけでメジャーやマイナーなどペンタトニック・スケールも変わってくるのだから、改めてギターとは弾きやすい楽器だなと思う。まあ、筆者はフレーズを覚えていないので、譜面を見ながらでないと弾けないのだが…。
「ギタリストにとってペンタトニック・スケールは最高の武器になります。ほかの楽器でペンタトニック・スケールを使うのは、じつは大変なんですね。というのも、クラシック音楽で使うような楽器は〈ドレミファソラシド〉というスケールからフレーズを組み立てますが、入り口がロックであることが多いギターは〈ドレミ〜〉を知らなくても、フレーズを組み立てることができます。だから、ギタリストはペンタトニック・スケールを最大限に利用したほうがいいんです」
その後も先生はペンタトニック・スケールの解説とともにレッスンを進め、参加者たちは黙々と弾いていく。筆者は理論を完全には理解できていないのだが、かろうじて譜面は追えているので、せっせと指を動かしながら「楽勝ですよ」感をアピール。きっと他の参加者たちも「あの痛ギター男、結構できるじゃん」と思っているはずだ。
そんなこんなでレッスンは進み、「裏コード」などいろいろと教えてもらったのだが、譜面や音を使わずに文章で説明するのはあまりにも難しいので、ここでは割愛。先生はレッスンの流れに応じて、参加者のプレイを見守りながら臨機応変にアドバイスしてくれる。しかも優しい。ああ、今日ここに来て本当によかった…。そんな心地よい時間が流れていたが、先生の “ある一言” で、すべてが崩れ去る。
「はい、では4小節ずつ回していきましょう」
はっ!? 回すぅ? 筆者がいちばん恐れていたことが起きてしまった。いや、恐れていたわけではない。初心者向けの教室なので、ソロを弾くセッションなど想定すらしていなかった。
緊急事態! ジャムセッション開始
「ジャムセッションでは『4バース・チェンジ』というドラムとソロの交換がありますが、その練習も兼ねて順番にソロを弾いていきましょう。自分の番ではないときはコードで伴奏を弾いてくださいね。ワーン、ツー……」
まさかのセッションに突入してしまった。ソロなんて弾けないぞ。っていうか、伴奏するためのコード進行もよくわかってないよ。ヤバい。まじでヤバい……という筆者の焦りを尻目に、ほかの参加者たちは何事もなく弾いていく。彼らは、へり下った “自称・初心者” だが、こちとら “真の初心者” だ。ここまでは何とか騙し騙しやってきたが、もう完全に公開処刑の図が見えてきた。刑の執行が刻一刻と迫るなか、ある思いが心の底から沸き上がる。
「もっと練習しておけばよかった…」
こんな地獄のカウントダウンはもう二度と嫌だ。明日から、いや今日から本気で練習しよう。筆者はこれまで「練習するモチベーション」を求め続けてきたが、皮肉にもこんな形で獲得するとは…。
いや、そんなことより今この場をどう切り抜けるか、そっちが先だ。とにかく必死で考える。本当に死んだフリとかで切り抜けられないだろうか…。などと焦っていると「今日のセミナーで使った譜面」が、ふと目についた。あっ! この譜面から使えそうなフレーズを見つけ出して、それっぽく弾いてみるのはどうだろう…。いや、もうそれしかない。
そしてついに自分の番がきた。1時間前に覚えて弾けた8分音符と3連符をなぞって、ブルースっぽいフレーズ(つまりブルースではない)を意識しながら、一音ずつ溜めながら弾いてみる。すると、先生の声が聞こえた。
「いいじゃん!」
嬉しい! と同時に「まあ、先生だって商売だ。お情けでそれくらいの言葉はかけてくれるだろう」と思う、卑屈な自分もいる。とはいえ “なんとか形になった” という安堵の方が大きい。あとから自分のプレイをで聴き返してみたが、案外、音は外していなかった。先生ありがとう…わずか1時間のレッスンでここまで成長(ごまかし方も上達)できました。
ギタリストに必要な「ブルース」とは
その後も2周目、3周目と続き、いよいよ為す術がなくなったが、なんとか初めてのセッションは終了。ホッと一息ついていたところ、先生から皆にこんなアドバイスが。
「ペンタトニック・スケールを弾いていると、どうしてもソロで “跳ね” てしまうのですが、それはスウィングではないので気をつけましょうね」
完全に俺のことじゃないか。一音ずつ溜めて弾いたのはダメだったのか。
こうして、2時間のセミナーはあっという間に終了。最後はブルースのセッションになり、再びソロのアドリブパートが到来。またしても譜面をなぞって誤魔化しながら弾いたが、これは乗り切れていなかったと思う。そんな筆者に向けてか、先生は最後に、ジャムセッションで重要なブルースについても教えてくれた。
「ギタリストは最低1曲、ブルースを弾けるといいです。おすすめは『ストレイト・ノー・チェイサー』です。モチーフは少ないし、リズムのアイデアが素晴らしい。“跳ね” の防止にもなります」
今回、初めてのギターセミナーに参加したが、収穫が大きすぎて驚いた。参加者それぞれの熟練度がバラバラでも、ひとまず譜面に沿って弾くことができれば、なんとか楽しめることもわかった。ちなみに今日のセミナーは1時間500円。初心者ならぜひ参加すべきである。自宅にこもって入門書を読みながら一人で練習するよりも、断然こっちの方がいい。あっ! そうか、俺の “痛ギター” に貼られた文言「書を捨てよ、町へ出よう」って、このことだったのか…。そんなことを思いながら、帰りに御茶ノ水に寄ってクリップチューナーを購入する筆者であった。
取材・文/千駄木雄大
撮影/加藤雄太
ライター千駄木が今回の取材で学んだこと
① 演奏のための適切な音量を理解すべし
② ギターの練習は常にリズムを意識して
③ 演奏者が2人いればセッションは可能
④ 1曲はブルースを弾けるようになろう
⑤ クリップチューナーは絶対に準備しておけ