投稿日 : 2023.08.25
【東京・渋谷/manu’a beer club】都会に浮かぶ クラフトビール専門のミュージックバー
取材・文/富山英三郎 撮影/高瀬竜弥
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「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回は神泉(東京都渋谷区)にある、クラフトビール専門店『manu’a beer club(マヌア ビアクラブ)』を訪問。リゾート感のある空間と80年代を中心とするソウルサウンドに包まれながら、世界中のビールが楽しめる新感覚のミュージックバーです。
渋谷で飲んでいることを忘れるローカルで居心地の良い空間
京王井の頭線の神泉駅から徒歩約2分、雑居ビル2Fに位置する『manu’a beer club(マヌア ビアクラブ)』。「神泉」と聞くと繁華街から遠いイメージもあるが、道玄坂を登って交番の脇道を入ってすぐと渋谷駅からのアクセスもいい。飲食店が多く質も高いため、渋谷エリアの人気スポットとしても知られる。
そんな飲食店密集地にて、2021年に移転オープンしたのが『manu’a beer club』だ。店名からもわかるように、ここはクラフトビールの専門店でもあり、日本や世界から集めた多彩なビールが常時8つのタップ、約35種類の缶で味わえる。それに加え、壁面にはレコードが約4000枚収納された本格的なミュージックバーでもあるのだ。
店内はカウンター5席、2人テーブル席×3、+1席で、ローカルなビーチ沿いのバーといった趣き。ハーフパイントのグラスを飲み干した頃には、昔から通っていたような気分になれる不思議な空間となっている。気づけば渋谷にいることを忘れてしまうほどだ。
「サラリーマン時代に気が滅入ることも多かったので、都会のオアシス的なお店にしたいと思ったんです」。そう語るのは店主の磯村さん。
ヒップホップへの興味からレコード収集をスタート
磯村さんは1987年岐阜県生まれ。高校卒業後に名古屋の美容専門学校に通い、美容室に就職するため上京。その店のオーナーが連れて行ってくれた、国分寺のソウルバー『FUTURE FLIGHT』がその後の人生を大きく変えたという。
「それまでもレコードを集めていましたけど、FUTURE FLIGHTに行ったら何千枚とあって宝の山みたいに見えたんです、衝撃でした。美容師になってまだ一年程度でしたけど、こういうお店をやりたいと思って、お金を貯めるためにサラリーマンに転職したんです」
磯村さんが音楽を意識的に聴くようになったのは、小学校3年の頃。6歳離れた兄が、ジャパニーズヒップホップやAIR JAM周辺の音楽を聴くようになったことがきっかけとなった。同部屋だった磯村さんはその影響を大きく受けたという。
「中学1年の頃、ターンテーブリストのDJ KENTAROが世界大会(DMC)で優勝したニュースで見て。そのあたりからヒップホップカルチャー全体が気になるようになったんです。あとはゲームセンターのbeatmaniaや、ドリキャスのJET SET RADIOとかにもハマりました(笑)」
高校1年のアルバイトでターンテーブルを購入し、そこからレコードを集めるようになっていく。当時人気だったUSヒップホップを皮切りに、90年代のミドルスクールや、元ネタのソウル、ディスコなど音楽の知見を増やしていったという。
「テレビっ子でもあったので、J-POPとかも聴いていました。L’Arc~en~CielとかLUNA SEAとかも大好きでしたよ。あとはユーロビートとかイタロディスコとか、ハイエナジーとかも聴いていました。気になるといろいろと調べるタイプなんです」
80年代前半のソウルを中心に軽快なサウンドをセレクト
思春期にさまざまな音楽を吸収したが、現在お店でかけているサウンドの軸となったのは国分寺の『FUTURE FLIGHT』の影響が大きいという。ちなみに、開店資金を貯めるためのサラリーマン生活は約10年続き、その間にレコード集めも並行しておこなっていたという。
「持っているレコードの中では、82年くらいのNYサウンドとかモダンソウルが多いですね。KASHIFとかLAMONT DOZIER、Delegation、それにAORやフュージョン、ブラジリアンジャズとか。あとは、シティポップというよりもジャパニーズソウルという感覚で山下達郎関連もよく買っていました。今もジャンルにこだわらず幅広くいろいろと聴いています」
そこで、『manu’a beer club』を象徴する3枚を選んでもらった。
(写真左から)
FUTURE FLIGHT『FUTURE FLIGHT』
「国分寺のソウルバーの店名となった一枚です。モータウン黄金期の名プロデューサーである、LAMONT DOZIERのプロジェクトで音楽的にはモダンソウルです」
YUTAKA(横倉裕)『brazasia』
「セルジオ・メンデスのユニットにも参加している、キーボードや琴などを演奏する横倉裕さんのアルバム。高校のときに初めて聴いて、ブラジル音楽に興味を持つきっかけになった一枚です」
V.A.『NAVIGATION TO ISLANDS ~Sound Image Collection-1~』
「インストのフュージョンジャズのような感じで、風景をイメージさせる音楽というコンセプトのアルバム。ジャケットのイメージ通りの一枚ですね」
シンセサイザーの音がキリッと鳴る音響システム
これらのサウンドは、ヤマハ NS-1000のスピーカー、パワーアンプはトーマンのS-75mk2、ターンテーブルはテクニクスのSL-1200 MK5、ミキサーはアレン&ヒース Xone:23という構成で鳴らされる。
「シンセサイザーの音など、冷たい音は冷たくキリッと鳴ってくれる、気持ちよく鳴ってくれることを大事にしています。低音がドンドン鳴るようなのはあまり好きではないんです。80年代のレコードをかけることが多いので、当時の定番的なスピーカーで、気軽に使えるものを選んでいます。高級品に手を出すと、蘊蓄をしゃべり続けてしまいそうなんで(笑)。今後はアンプとかでもう少し打楽器の抜けを良くしたいです」
80年代は、このお店の内装にもかかわるキーワードでもある。
「昔のトレンディドラマとかで、部屋なのかお店なのかよくわからない場所で仕事の愚痴を言っているシーンがあるじゃないですか。あの雰囲気がいいなと思っていて。あとは、自分がよく行っていたソウルバーは暗くてミラーボールがあってという感じだったので、もう少し明るくてカフェ感覚で若い世代を取り込めるようにしたいと思ったんです」
なんとも形容し難い店内の雰囲気は、近年のファッションワードでもある「いなたさ」が感じられる。しかし、「ダサい」にはならない絶妙な匙加減に店主のセンスの良さが伺える。また、音楽的にはソウルバーであるという思いで営業している点も、いい意味でのギャップがある。
「やりたいことはすでに結構できているんで。このままレコードを増やしていきながら、続けていければと思っています」
レコードを選ぶ感覚と近い、クラフトビールのセレクト
クラフトビール専門店だけに、そのセレクトも多彩。気分や好きなタイプを伝えるだけで、ちょうどいいおすすめを提供してくれるのが魅力だ。
「いまや世界中にさまざまなクラフトビールがあるんで、季節に合わせてラインナップを変えたりと、レコードを選ぶ感覚で選んでいます。樽の入れ替わりが早いので、来るたびに新しいものが楽しめると思います」
クラフトビール目当てでも、音楽目当てでも、どちらでも楽しめるハイブリッドなミュージックバー。都会に浮かぶ島を訪れる感覚で、ふらりと立ち寄ってみるのがおすすめだ。
取材・文/富山英三郎
撮影/高瀬竜弥
・店舗名 マヌア ビアクラブ
・住所 東京都渋谷区円山町5-14 スタービル2F
・電話 080-2677-8407
・営業時間 18:00-25:00
・定休日 日曜
・HP https://manuabeer.storeinfo.jp/
・Instagram @manua_beerclub