投稿日 : 2023.09.08

ライブ&セッション情報たっぷり!─驚異の検索サイト「今日ジャズ」さんに聞いてみた【ジャムセッション講座/第15回】


これから楽器をはじめる初心者から、ふたたび楽器を手にした再始動プレイヤー、さらには現役バンドマンまで、「もっと上手に、もっと楽しく」演奏したい皆さんに贈るジャムセッション講座シリーズ。今回は、ジャズのライブジャムセッションスケジュールを検索できるウェブサイト今日ジャズ」をクローズアップ。運営者に話を聞いてみた。

【本日の先生】

今日ジャズ
今日ジャズ
(きょう じゃず)
ジャズのライブやジャムセッションの情報をカバーした検索サイト。場所や日付、演奏者などの条件を指定し、日本全国450軒近くのライブハウスのスケジュールの中から「行きたいライブ」の候補を絞り込める。運営者の堀江大輔氏はベーシストとしても活躍。都内のステージを中心に、ライブやセッションに出演している。

【記者】

千駄木雄大

千駄木雄大(せんだぎ ゆうだい)
ライター。30歳。大学時代に軽音楽サークルに所属。基本的なコードとパワーコードしか弾けない。セッションに参加して立派に演奏できるようになるまで、この連載を終えることができないという十字架を背負っている。最近「ARBAN」の記事のほとんどは英語化されていて、この連載が世界中の人に読まれる可能性があることを知って衝撃を受けた。この変な自己紹介も毎回翻訳されているらしい。

“なんとも言えない怒り” が湧いた…

グーグルで「ジャムセッション」「スケジュール」と検索すると、多様な情報サイトがヒットする。そんななかで、圧倒的な情報量と見やすさ&使いやすさを誇るのが「今日ジャズ」だ。なにしろ、ジャズのライブとセッションのスケジュールに特化したサイトである。しかも、日本全国のライブハウスをフォロー。筆者のようなジャムセッション修行者はもとより、ライブを聴きたいジャズファンにとって非常にありがたい内容なのだ。一体どんな人が、どんな思いでこのシステムをつくり上げたのか。「今日ジャズ」の運営者で、自身もプレイヤーとしてジャムセッションに参加しているという堀江大輔氏に話を聞いた。

──このサイトを始めたのはいつから?

堀江 サービス自体は2021年12月28日に開始したので、実質的には2022年からです。

──スタートからおよそ1年半が経ったところですね。そもそもどんなきっかけで?

堀江 私自身が、ジャズのライブを見に行くのが好きなんです。それで毎回いろんなライブの情報をその都度お店のウェブサイトやSNSでチェックしていたのですが、すごく手間に感じて。

そこで、まずは自分がよく行くお店のライブのスケジュールをまとめて、自分自身で検索できるシステムを作ってみた。それがスタートです。

──なるほど。自分にとって便利なツールを自作してみた。

堀江 そうです。動機は「自分に必要だったから」。サイトのシステム自体は、コロナ禍で時間ができたのでプログラミングを学んで、データベースを構築するところから始めました。

──その時点では、まだ自分用のスケジュール帳のような状態。そこからどうやって現在の形に?

堀江 そのシステムを構築してしばらく経った頃、あるライブに行ったんです。すごく楽しみにしていたライブで、本当に素晴らしい内容でした。なのに、お客さんが私を含めて2名しかいなかった。そのとき、なんとも言えない怒りと哀しみというか…そんな感情が湧いてきて。

路上演奏
photo:Getty Images

とにかく、もっと多くの人にライブ情報が届くようにしたい。もっと多くの人にジャズに興味を持って欲しい。そんな思いで、自分が構築したシステムをウェブ上で公開することにしました。

──自分のためからジャズのためになった。

堀江 はい、サイトとして公開したときは「あなたの近所で、たくさんジャズの演奏が行われているのだから、ライブにもっと足を運んでほしい」という気持ちになっていましたね。とにかくいろんな人にジャズに興味を持ってもらいたいし、最終的にはジャズを楽しむ人の数が増えてジャズの裾野が広がるといいな、と思って。

──サイトの副題に今日はどこに、ジャズのライブを聴きに行く?という文言がありますが、このノリというかカジュアルさがいいですよね。

堀江 そこは狙っていますね。「今日の夜、予定が無いからどこか行くか」という思いつきでスポーツ観戦や映画に行く感覚で、生のジャズ演奏に触れてもらいたい。そんな意図もあって、サイトの1ページ目に「場所」と「今日の日付」をデフォルトで表示して、今日のお好みの場所のライブ情報を調べられるようにしています。

今日ジャズ

面白いジャズのライブは、初めて聴く人にも前情報なしで面白さと楽しさを感じさせることができる。その確信が私にはあるので、とにかく多くの人にジャズ演奏との接点を作り出したいんです。

デザインに “ジャズらしさ” は不要

──その熱い気持ちとは裏腹に、ウェブサイトの仕様はきわめて冷静というか、シンプル。

堀江 ジャズに興味がない人にもサイトを利用してもらいたかったので、「ジャズらしさ」を持たせる必要はないと考えました。いわゆる、ダークなデザインや情報過多、ムーディーな雰囲気は、一般の人にとって理解しづらくなる余計な要素と思ったんですね。とにかく、訪問者がウェブサイトをすぐに離れてしまわないように、見やすくて親しみやすい雰囲気を心掛けました。

──フォントも特徴的です。

堀江 かわいらしいものを使っているので、サイト開設当初、利用者の方にお会いした際に「今日ジャズの中の人は女子大生なのかと思っていた」と言われたこともあります(笑)。

──僕も吹奏楽部の女子高生を思い浮かべていましたよ。まさかこんなコワモテの兄貴だったとは(笑)。あ、すいません…。

堀江さんはこんな感じのお方です

──サイトのルックスも素晴らしいですけど、使いやすさも抜群ですよね。ライブとセッションを分けて検索できるし、出演者や会場の絞り込み検索も可能。まさにジャズのライブに特化した検索エンジンのような存在感ですけど、これほど膨大な情報をどのように収集・整理しているのですか?

堀江 簡単にいうと、全国のジャズ・ライブハウスのウェブサイトに掲載されている情報を集めて「今日ジャズ」に掲載している。ただそれだけのことなんですが、ウェブサイトの数が膨大なので、自動的にウェブサイトを訪問して情報を収集するプログラムを使用しています。

──そんなプログラムがあるんですね。

堀江 週に1回くらいのペースで情報を収集して、集まったデータを微調整してデータベースに取り込みます。できるだけ手作業が発生しないように工夫しています。現在、日本全国の約450軒のライブハウス情報を掲載していますが、その半分は自動収集したもので、残りの半分は私が直接ホームページを訪れて情報を集めたものと、ライブハウス側から情報提供があったもの。という内訳です。

──その管理と運用を、堀江さん一人でやっているんですか?

堀江 はい、今は私だけでなんとかやっていけています。当初は首都圏の有名な店の情報だけを載せていたのですが、そのうち出演者の方から「今度〇〇というライブハウスで演奏するから、その情報も載せてよ」と頼まれたり、ツアーで出会ったお店の情報を教えてもらったりすることで、紹介するお店の数が増え、対象範囲も全国にまで広がるようになりました。

作業量はどんどん増えて大変ですけど、その苦労より、利用者の方から「使いやすい」と言われる嬉しさの方が勝りますね。

──サイト内にアフィリエイト広告などは貼られていませんが、収益はどのように得ているのでしょうか?

堀江 今は知人の行っているジャズ関連事業の広告がメインです。今後も見ている人たちにも有益になるような、音楽関係の広告を出せるようにそういった会社や事業に広告出稿のお願いをしています。

あと収益ということで言うと、サイト利用料を取ることだけは避けたいと思っています。「ジャズを知らない人がジャズにアクセスしやすいように」という気持ちで始めたのに、当のサイトを利用するのにお金がかかっては、誰も使ってくれませんからね。

──先ほどコロナ禍で暇になったのでプログラムを勉強してこのサイトを作ったとおっしゃいましたが、コンピュータ関係のお仕事に就いた経験もなかった?

堀江 かつては商社勤めのサラリーマンでした。その頃もITメインの業務についていたのですが、プログラムに関する専門的な知識はありませんでしたので、前々から専門知識の必要性は感じており、勉強するに至りました。現在は「今日ジャズ」の運営と並行して、ウェブ・エンジニアのような仕事をしております。

ジャズにまつわる負のイメージを払拭したい

──現在のところ、今日ジャズが扱っている情報は “ジャズのライブハウス” に特化しています。つまり、ジャズフェスティバルや単発のコンサートなどは載っていない。今後そうした情報も扱う予定はありますか?

堀江 今のところ「今日ジャズ」は「ジャズライブやジャムセッションの開催を定期的におこなっているお店」を対象にしています。ただ、ゆくゆくは単発のイベントやコンサート、ジャズフェスなども検索できるシステムを作成したいと考えています。

特にジャズフェスはいろいろなタイプの出演者が演奏されるので一般の人も接点を持ちやすい。「ジャズファンの数を増やしたい」と考える私にとっては、重要なコンテンツの一つです。

──あと何をもってジャズとするのかみたいな問題がありますよね。

堀江 確かに「あの店はフュージョン寄りだからサイトにそぐわないよ」と言われたこともありました。しかし、これは私自身のポリシーなのですが、「やっている人がジャズだといえば、それはジャズ」だと思っています。

photo:Getty Images

だから、リズムや和音がどうとかは気にせず、「ジャズやっているので載せてください」と言われれば掲載しますし、ジャズ専門のライブハウスではなくとも「ジャズのジャムセッション」を開催していれば、そのお店の音楽イベントはすべて紹介させてもらっています。そのため、「今日ジャズ」というサイト名ですが、たまにロックの情報が載っていることもあります。

──その度量、頼もしいです!

堀江 何でもかんでもジャズと言えば良い、というつもりはありませんが、できるだけジャズの間口を広く保っておきたいという気持ちは、私の中であります。これはわたし自身が常々「不健全だな」と思っていることなのですが、ジャズの間口を狭めるような「ジャズのパブリックイメージ」が放置されているように感じるんですよね。

──ジャズは “わかってる者” だけが聴く資格がある、みたいな。

堀江 「大人な音楽」とか「難しい」とか「勉強が必要」といった、一見さんを遠ざけるような凝り固まった負のイメージです。今、若い世代に素晴らしいプレイヤーが増えているにも関わらず、そうした世代と同年代の「若いリスナー」をライブハウスなどで目にする機会はかなり少ないように思えていて、その理由の一つとして、そうした「パブリックイメージ」があるのではないかな、と。

──なるほど。確かに “入り口” の狭さや、見つけにくさはありますね。

堀江 これを放置し続けると、ジャズのリスナーの数がどんどん減り、今の若いプレイヤーたちが20年、30年と活躍したくても、将来的に聴く人がいない、ジャンルとして成り立たない、という事態になるのではないかと危惧しています。これは、いちジャズファンとして由々しき事態だと思いますので、「今日ジャズ」を通じてこうした「パブリックイメージ」を払拭してジャズの間口を広げていければ、と考えています。

ジャムセッションの場が急増中

──昨今のジャムセッションの現場について、何か思うことはありますか?

堀江 海外のジャズ情報にそれほど詳しくはないので、単純な比較はできないとは思うのですが、今日ジャズのデータを見ていると、日本はセッションをやっている店が多いなっていう印象がありますね。特に最近はセッションに特化したお店も多くなったと感じています。ジャズライブハウスの数自体も増えているのではないでしょうか。

──確かに、この連載をきっかけにいろいろ調べ始めましたが、2010年代にオープンしたお店もけっこう多い。

堀江 サイト利用者も、私が現場で利用者の方にお会いしてお話させて頂いた肌感覚では、演奏者とリスナーの比率は半々か、演奏者の方が少し多いくらいかな、と思います。

私自身もリスナーでありながら演奏者でして、よくセッションホストとしてお店に呼ばれることがあるのですが、最近のセッションの場では、大阪の方が「今日ジャズ」で東京のセッションを探して参加したり、逆に東京の方が「今日ジャズ」を使って大阪のセッションに参加する、というような話もよく聞きます。そのため、今後は日本全国のジャズ演奏者の方たちの交流の場としても「今日ジャズ」が機能したらいいな、とも思っています。

──演奏者としての堀江さんにも興味があります。どんなきっかけでジャズ奏者に?

堀江 大学でジャズ研に入ったのがきっかけですね。音楽を聴くのが好きだったので、当初は軽音楽部でもいいかなと思ったのですが、サークル棟の入り口から一番近くにあった音楽系サークルがジャズ研だったので、ふらりと入ってしまった(笑)。

まあ、そんな感じできっかけを得て、学生時代からセッションに参加したりライブをしたり、と音楽活動をしておりました。で、卒業後も会社員をやりながら演奏を続けていたのですが、海外に赴任することになってしまい、5年くらい日本のジャズから離れてしまった。

ライブ演奏中の堀江さん

その後、ようやく東京に戻ってきたときには、お店に出ているミュージシャンなども結構代わってしまっていて、またゼロからお店に通って人脈を作らなければならなくなった。そこで数多くのお店やミュージシャンのウェブサイトをお気に入り登録して、日々見たいライブがないか探すようになったのですが、この探す作業がなかなか面倒でしたので、プログラムを学んで数年前に「今日ジャズ」の元となったシステムを構築しました。

──なるほど! 冒頭の話につながった。東京でふたたびジャズを楽しむためのウェブサイト巡りが、このデータベースの誕生につながった、と。

堀江 そうですね。今でも「今日ジャズ」を一番利用しているのは自分自身だという自負はあります(笑)。

「今日ジャズ」検索テクニック

──世間がジャズに抱いているネガティブな印象、あるいは無関心。これを解決するためにも、ぜひ「今日ジャズ」さんには頑張っていただきたいです。ちなみに僕はいまもジャムセッションの印象は恐怖しかないですが…。

堀江 昔はジャムセッションというとプロ主導で、初心者は参加しにくい雰囲気はありましたが、最近は初心者向けのセッションも増えているので、「怖い」なんてことはないと思います。

──それでもやっぱり、初心者に厳しいイメージは拭えないですね……。

堀江 そんな、ジャムセッションに恐怖を覚えている千駄木さんに、最後に「今日ジャズ」のオススメの裏技を伝授しましょう。

──マジすか!?

堀江 じつは「今日ジャズ」で初心者向けのセッションを探すことができるんです。「いろいろ検索」ページの〈演奏者〉の欄に「初心者」と入れて検索してみると、「初心者セッション」などと銘打っているイベントがたくさんヒットします。

──本当だ。日付の範囲を長めに設定すれば、いろんなお店が出てきますね!

堀江 これで初心者向けのセッションにガンガン参加してください。あと、私自身も毎月ライブやジャムセッションに参加しているので、もしよかったら出演者の箇所に「堀江大輔」と打ち込んで、演奏を見に来てください(笑)。

取材・文/千駄木雄大

ライター千駄木が今回の取材で学んだこと

① ジャズを聴きたければ「今日ジャズ」を見ろ
② ジャズを演りたい人も「今日ジャズ」を見ろ
③ やっている人がジャズだと言えば、それはジャズです
④ ジャムセッションの現場はどんどん増えている
⑤ ジャズの「負」のパブリックイメージを壊せ
⑥「今日ジャズ」で初心者向けセッションを調べろ

今日ジャズ
https://kyoujazz.com/

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