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「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回は下北沢(東京都世田谷区)にあるミュージックバー『óleo(オレオ)』を訪問。中南米のサウンドを中心にヒップホップやソウル、レゲエまで、お客さんの雰囲気に合わせてさまざまな音楽が楽しめるお店でした。
メキシコ旅行をきっかけにラテンのグルーヴに目覚めた
京王井の頭線・小田急線の「下北沢」駅東口から徒歩約2分、南口商店街の路地を入った新しいビルの2Fに『óleo(オレオ)』はある。下北沢は駅前の再開発も終わり、コロナもひと段落したこともあり、古着屋巡りをする若者や外国人観光客で新たな賑わいを見せている。そんな場所で、2020年7月に中南米の音楽を中心とするミュージックバーとしてスタートした。
「妻がアメリカに短期留学していたので、それが終わる2018年末に夫婦でメキシコ旅行をしたんです。そこで毎晩のようにライブ演奏のあるレストランに行って、ラテンのグルーヴに衝撃を受けたのがきっかけですね。世界は広いんだなと思いました」。そう語るのは店主のSHIGEKIさん。
ヒップホップDJとして90年代からプレイ
現在はクンビアなどラテンを中心にプレイすることも多いが、1976年生まれのSHIGEKIさんはもともとヒップホップDJとして知られ、DJ YASとDJ QUIETSTORMが1998年から続けている老舗パーティ「TIGHT」のレギュラーDJでもある。
「地元の江戸川区はダンサーが多くて、先輩の影響で高校生の頃からクラブに行くようになったんです。でも、行ってみたらDJがかっこよく見えてレコードを買い始めて。93年頃はウェッサイが人気だったんでDr.DreやSnoop dog、その他にも東西のUSヒップホップやメアリー・J. ブライジとかのR&Bを探しながら、王道ヒップホップDJを目指していました」
その後、中目黒のレコード屋『ONE WAY RECORD』で勤務し、そこが閉店になると渋谷の『Yellow Pop』でヒップホップのバイヤーとなった。しかし、そこも閉店となってしまい、内装業など会社員をやりながらイベントがあればDJをするという生活となる。その転機となったのが、前述のメキシコ旅行だ。
「海外から帰ってくると、いいヴァイブスが続くじゃないですか。あの感じがずーっと続いたんです。そんな気分のままラテンのクラブに行ったり、メスカルが飲めるお店に行ったりしていたら友だちも増えて。ヒップホップとはまた違う、ラテンのヴァイブスが性に合ったんですよね」
メスカルなどお酒の知識も日本に帰ってきてからいろいろと学び、旅で感じたものを答え合わせするかのように知識を増やしていったという。
ソウルバーのラテン版、そんなお店を突然やりたくなった
「いつも自分は閃き系なんですけど、ある日目が覚めた瞬間に“お店をやろう”と決めたんです。イメージがバーッと浮かんだんですよ。それが2019年の夏前かな。それから物件をチェックするようになって、2020年1月にここを見つけたんです。人生の賭けでした」
多くの人が思うDJのイメージとは違い、煙たくて暗い場所が好きではないというSHIGEKIさん。当初からイメージしていたお店は、風通しがよく明るくて雰囲気のいいスペースだったという。
「ソウルバーのラテン版みたいなお店ってあまりないなと思って。お酒メインだけど、タコスなどのつまみも食べられて中古レコードも売っている。そして、いろんなジャンルの人が出入りするようなラテンのミュージックバーをやりたいと思ったんです」
物件が新築のスケルトンだったこともあり、先輩の大工さんとふたりで一から施工していった。壁面に塗られた南米らしい赤と青は、探し回って見つけた色だとか。また、DJブースは手もとが見えるようにしたいなど、自分のこだわりを細部にまで行き渡らせたという。
「でも、工事をしている間に緊急事態宣言になったりしてすごく不安でした。夜中に変な汗で起きたり(笑)」
メスカルを中心に南米定番のカクテルなども楽しめる
飲食の経験はなかったが、知り合いにいろいろと教えてもらいながら、試行錯誤を重ねながら今日まで営業してきたという。そんな甲斐もあって、20~40代を中心に、ときに70代の常連さんまでが訪れる、音楽好きが集まるミュージックバーとなった。メスカルは常時約20種類を揃え、日本では売っていないものも数多く取り揃える。
「現地にいる友だちのDJが、日本に来るメキシコ人に“困ったらóleoに行け”と言ってくれているみたいで、いろんなメキシコ人が来るんですよ。この前は手売りでメスカルを売りに来た人もいて。あと、頻繁にメキシコに行く先輩に買ってきてもらったりもしています」
お客さんを見ながらDJ感覚で幅広い音楽をセレクト
レコード棚にはコロンビア、ペルー、ドミニカなどの最新のラテンや、ヒップホップ、ブレイクビーツ、レゲエ、ジャズ、ブラジル、ソウル、R&Bなどが揃う。
「(レコードやCDを)かけっぱなしのときもありますけど、頼まれればミックスもします。キーワードからお客さんの好みを探って、それが刺さったときは最高ですね。ラテンは新譜がレコードで出ることが少ないですし、日本で買うと他のDJとかぶることが多いので最近は海外通販することが多いです」
本人はかけっぱなしと言うが、そうは言ってもつなぎのスムーズさは絶品。また、音響は高音域をTaguchiスピーカーが担い、低音部分は懐かしのTDK BOOM BOXが補足する構成。これが店内の広さにフィットしたのか、心地よく響きながら会話も楽しめるナイスなサウンドになっている。
「大変ですけど、お客さんが楽しそうにしているのは最高ですね。今後も試行錯誤しながら続けていきたいです」
中古レコードは店内のみならず通販もおこなっている『óleo』。下北沢でラテンのヴァイブスを楽しみたいときはぜひ足を運んでみて欲しい。お客さんの流れ次第で閉店時間の延長も。また、不定期で毎月3~4日程度「óLEO LOUNGE」として知り合いのDJが入る日があり、通常営業でもひと言頼めばスムーズなMIXプレイで最高な一夜を演出してくれる。
取材・文/富山英三郎
撮影/高瀬竜弥
・店舗名 オレオ
・住所 東京都世田谷区北沢2-12-2 サウスウェーブ下北沢 2F B
・営業時間 18:00~24:30
・定休日 月曜、火曜