青野賢一
文筆家/選曲家/DJ
1968年東京生まれ。株式会社ビームスにてプレス、クリエイティブディレクターや音楽部門〈BEAMS RECORDS〉のディレクターなどを務め、2021年10月に退社、独立。フリーランスとして執筆、DJ、選曲をはじめさまざまな活動を行なっている。音楽、ファッション、映画、文学などのポピュラー・カルチャーをアクチュアルな問題意識を持って論じた書籍『音楽とファッション 6つの現代的視点』(リットーミュージック)を2022年7月に上梓。また、USENの店舗向けBGM配信アプリ「OTORAKU」にキュレーターとして参画し、プレイリストを定期的に公開中。
Asynchrone
『Plastic Bamboo』
パリを拠点に活動する現代音楽、フリージャズ系の音楽家6名による坂本龍一作品のカバー集。坂本の生前にスタートした取り組みだが、結果的に追悼作品的な意味合いも加わった。「Behind The Mask」「Riot In Lagos」といった1970~80年代の坂本作品を中心とした選曲だが、たんにオリジナルをなぞるのでなくそれぞれの楽曲の音楽的、精神的な芯となる部分を見事に抽出し、自由なマインドで表現しているのが素晴らしい。
Oneohtrix Point Never
『Again』
クラシックの要素、圧倒的な密度と解像度の電子音、そしてポスト・ロック的なアプローチという具合にこの作品の特徴を書き出すことはできるが、なにしろ全篇を通じてロマンティックなムードを放っており、それにすっかり心を射抜かれてしまった。良質な映画を鑑賞したあと、温かいものが自らの裡に満ちてくる––––そんな感覚を味わわせてくれる稀有なアルバムだ。ロマンティックでありながら、まるで甘ったるくないのがまたいい。
Anthony Naples
『Orbs』
ニューヨークのミュージシャン、プロデューサーのアンソニー・ネイプルズ。もともとはロウハウス界隈で注目を集めていた彼の5作目となるアルバムは、大変優れたアンビエント・テクノ~ダウンテンポ作品だ。浮遊感はあるものの、どこか水のなかを漂っているような曖昧な音像で、世に溢れるリラクゼーション系アンビエント~チルアウト作品とは明らかに一線を画する奥行きが感じられるのがいい。極上のミッドナイト・サウンドトラックだ。