投稿日 : 2023.12.30

【2023年ベスト】ジャズ アルバム BEST 50

2023年にリリースされた “ジャズ系” 作品の中から50作をセレクト

構成・文/土佐有明


Aaron Parks Little Big/Live In Berlin

ブラッド・メルドーの再来とも称され、ジェイムス・ファームなどで活躍するピアニスト、アーロン・パークスのリーダー作。本作はバンドの一体感や結束力を強く感じさせる内容。時にコンテンポラリー・ジャズの枠を大きくはみ出し、ロック的なダイナミズムが漲る場面も。iPhoneのボイスメモで録音されたという本作だが、意図せず入り込んでしまったざらつきや歪みがアクセントとなり、アルバムに深みや奥行きを与えている。


Banksia Trio/MASKS

須川崇志(b)、林正樹(p)、石若駿(ds)という豪華メンバーによるトリオ作。これが3作目とあって、これまで以上に緊密で濃密な音のコミュニケーションがはかられている。また、菊地雅章やポール・モチアン、ニック・ドレイクの曲を取り挙げており、斬新な解釈に蒙が啓かれた。特に劈頭に置かれた菊地の「Drizzling Rain」が印象的で、この曲の演奏が予告編のように機能し、その後は豊富な音楽的ヴォキャブラリーが次々と飛び出してくる。


Ben Wendel/All One

気鋭のサックス奏者のリーダー作は、宝石箱のようなアルバム。ゲスト陣が現代のジャズ・シーンを代表/象徴するような音楽家ばかりである。セシル・マクロリン・サルヴァントのヴォーカル曲で幕を開け、以降、ビル・フリゼール(g)、テレンス・ブランチャード(tp)、ホセ・ジェイムズ(vo)、ティグラン・ハマシアン(p)などとの共演が続く。ファットで分厚いサックスの響きも、必ずやリスナーを虜にすることだろう。


Bendik Giske/Bendik Giske

ノルウェー出身で現在はベルリンに居を構えるサックス奏者の3作目。一聴すると、ミニマル・テクノやIDMのようなビートに耳が行く。自分の身体や楽器の回りにコンタクト・マイクをつけて、具体音や現実音を取り込んでいるそうだ。循環呼吸の使用という意味では、エヴァン・パーカーに通じるところも。サックスの腕前もさることながら、とにかくアイディアが斬新。ティム・ヘッカーや池田亮司が好きな人にも勧めたい一枚。


Brad Mehldau/Your Mother Should Know: Brad Mehldau Plays The Beatles

ありそうでなかったアルバムかもしれない。ピアニストのブラッド・メルドーはこれまでもビートルズの曲をライヴで演奏しているが、本作は初の公式音源。ビートルズの豊かな曲想、洒落た和声感、キャッチーなメロディを拡張したような演奏が展開される。メルドーによる自作解説も明晰かつ鋭く、一読の価値あり。棹尾を飾るのは、デヴィッド・ボウイの名曲「Life on Mars?」のカヴァー。これがまたいいアクセントになっている。


Brandon Ross/Of Sight And Sound

アーチー・シェップ、カサンドラ・ウィルソン、キップ・ハンラハンらのサイドメンを務めたブランドン・ロス(g)が率いる4人組のアルバム。アブストラクト画家のフォード・クルルとコラボレーションした作品でもあり、サウンドはやや抽象的ではあるが、映像喚起力に富んでいるのもポイントだろう。具体音や現実音を取り込みながら、今様ジャズを刷新しようという志の高さが窺える。抑制の効いたブランドンのギターもいい。


Brian Blade /LIFECYCLES Volumes 1 & 2 : Now! and Forevermore

常に第一線で活躍してきたドラマー=ブライアン・ブレイドが、01年からNYで活動していた、7人編成のバンド=ライフサイクルズと録音したアルバム。ソロ作も秀逸だったピアノのジョン・カワードが、全体の調整役とでも言うべき役割を果たしている。また、ブライアンが敬愛するヴィブラフォン奏者、ボビー・ハッチャーソンへのトリビュート的な意味合いもある作品だそう。ケンドリック・スコットの新作同様、ボビーへの思慕の念が伝わる。


Chris Botti/Vol.1

95年に名門ヴァーヴからデビューしたトランペット奏者のリーダー作。本作はとにかく聴きやすい。ジャズに敷居が高いというイメージを持っている人も、長年のジャズファンも感じ入るところがあるはず。メランコリックなバラードで見せる叙情性には息を呑むし、軽妙で瀟洒なサウンドも顔を覗かせる。一歩間違えばヒーリングやカフェでかかるBGMになりそうなところだが、本作にはそのような安易な形容を跳ねのける芯の強さがある。


CYKADA/Metamorphosis

いきまりピート・コージーのようなヘヴィで重厚なギター・ソロで幕を開ける本作、悪かろうはずがない。UKのジャズ・シーンの新鋭たちが集った演奏は、サウンドシステム・カルチャーとロックにインスパイアに触発されたとのこと。確かに、ぶっとい低音とサイケデリックな音像が掛け算になっており、不穏で妖しげなサウンドを放出してくれる。ジャズの概念を拡張するような、パワフルで豪放な音塊に圧倒されること必至。


Daniel Villarreal/Lados B

ダニエル・ヴィジャレアルはパナマ出身でシカゴ在住のドラマー/DJ。ジェフ・パーカー(g)、アンナ・バタース(b)と共に作り上げた2020年の『Panamá 77』に収めきれなかった即興演奏の数々を収録したのが本作。アフロビートやディープファンクを包含するサウンドは、未収録だったのが不思議なほどの強度を誇る。特に、ジェフのギタリストとしてのヴォキャブラリーの豊富さと多彩さには、毎回のことながら驚かされる。

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