投稿日 : 2023.12.30
【2023年ベスト】ジャズ アルバム BEST 50
Kendrick Scott/Corridors
ブライアン・ブレイドの後継者的なドラマー。ケンドリック・スコットについてはそんな形容が似合う。本作はウォルター・スミス3世(sax)、リューベン・ロジャース(b)と組んだトリオ編成。コードレス・トリオならではの緊張感と緊迫感が伝わってくる。ヴィブラフォン奏者、ボビー・ハッチャーソンの曲をリアレンジしたトラックを1曲収録。ケンドリックの作曲家としての才能も、これまで以上に顕在化したアルバムだと言えるだろう。
Koma Saxo/Post Koma
スウェーデンのプロデューサー/ベーシスト=ペッター・エルドが率いる7人組のアルバム。同じ北欧のアトミックにも劣らない、パワフルで野趣に富むプレイが展開されている。エリック・ハーランドやリチャード・スペイヴンを迎え、ドラムに焦点を当てた作品もあるエルドらしく、ビート・ミュージック的な色合いも濃厚。ポスト・ロックや音響派を通過した音でもある。J・ディラ以降とでもいうべき、ふらつくようなリズムも独特。
Kurt Elling/SuperBlue: The Iridescent Spree
今年聴いたヴォーカリスト入りのジャズで最も感銘を受けたのが、このカート・エリングのリーダー作。ブルーノートと契約した『Man In The Air』(03年)以降、グラミー賞の常連であり、ようやく受賞した前作『SuperBlue』に続くのが本作。前作同様チャーリー・ハンター(g)が深く関わっている。ソフトだが表情豊かなカートの歌声は、ビング・クロスビー、ナット・キング・コールらと並ぶ。コーリー・フォンビルのドラムも出色。
Kurt Rosenwinkel, Geri Allen/A Lovesome Thing
片や、世界中のミュージシャンに影響を与えつつあるギタリスト。片や、M-BASEコレクティヴに参加し、2017年に逝去したピアニスト。カート・ローゼンウィンケルとジェリ・アレンの共演盤が本作で、2012年のライヴが収録されている。カートの自在に旋回するギターと、軽やかで瑞々しいジェリのピアノ。ふたりが接点を探りながらインタープレイを繰り広げるさまはビル・エヴァンスとジム・ホールの『アンダーカレント』も連想させる。
Langendorf United/Yeahno Yowouw Land
レディオヘッドのドラマー、フィル・セルウェイが推しているのも納得の仕上がりだ。スウェーデンのサックス/ピアノ奏者の最新作は、東欧のジプシー音楽やアフロビート、エチオジャズまでを呑み込んだ、妖しく怪しい一枚だ。エキゾティックなフレーズが頻出する演奏はもちろん、サイケデリックな音像も耳を惹く。シンク・オブ・ワンやタラフ・ドゥ・ハイドゥークスなどが好きなリスナーにもぜひ聴いてほしい逸品である。
Linda May Han Oh/The Glass Hours
ジャズの重要作に名を連ねることの多いベーシストの最新作。コンスタントに良作をリリースしてきた彼女だが、これは決定版ではないだろうか。ピアノ・トリオにサックス、ヴォーカルという布陣で電子音も使用。夫でもあるファビアン・アルマザン(p)、マーク・ターナー(sax)、ポルトガル出身の歌手サラ・セルパなどが参加。スコット・ラファロ、チャーリー・ヘイデンにも劣らないベーシストの彼女だが、作曲・編曲の才能も突出している。
May Inoue STEREO CHAMP/The Elements
スーパー・バンド、CRCK/LCKSのギタリスト=井上銘率いるクインテットの3作目。“ロックフェスでも闘えるバンド”という謳い文句の通り、アグレッシヴな演奏を展開してきた彼らだが、本作は曲調の振れ幅がぐっと広がった。メンバーの類家心平(tp)、渡辺翔太(p,key)、山本連(b)、福森康(ds)はいずれも充実のソロ作をリリースしており、いずれも相当な手練れ。特に類家の火を噴くようなトランペット・ソロには圧倒される。
Meshell Ndegeocello/The Omnichord Real Book
ファンクやR&B、アフロビートなどを基軸とする本作を、ジャズに括るかどうかは難しいところだ。しかし、リリースはブルーノートからで、ジェイソン・モラン、アンブローズ・アキンムシーレ、ジョエル・ロス、ジェフ・パーカーらが参加している。これを入口にジャズに接する人もいるだろう。くぐもったようなアナログな音像が、名手揃いのクセのあるサウンド・メイクと相まって、むせかえるほど濃厚な音世界を構築している。
Mette Henriette/Drifting
前作がECM史上初の2枚組だったという事実だけでも、同レーベルの彼への期待度が分かろうというもの。ノルウェーのサックス奏者がピアノ、チェロと組んだアルバム。その響きはどこまでヴォリュームをあげても静謐そのもの。音数は少なく内省的で、ヤン・ガルバレクから始まってニルス・ペッター・モルヴェルなどに続く、ノルウェーのジャズの系譜を継承している印象も。曲によっては室内楽的な様相を呈したりするのも興味深い。
Miho Hazama/Beyond Orbits
近年ラージ・アンサンブルが注目されているが、作曲家/編曲家の挾間美帆はマリア・シュナイダーと並び同分野で活躍する作曲/編曲家。オランダやデンマークでも活躍している彼女が13人の音楽家と作ったのが本作。いわゆるビッグ・バンド・ジャズとは異なり、室内楽的な要素が濃厚だが、ソリストが個性を発揮するスペースもあり。即興的なスリルや刺激にも満ちている。アース・ウインド&ファイアーのカヴァーも収録。