投稿日 : 2023.12.30

【2023年ベスト】ジャズ アルバム BEST 50


Mikkel Ploug/Nocturnes

デンマークのギタリストで作曲家のミケル・プロウと、彼と12年間にわたり共演してきたテナー奏者マーク・ターナーとの共演作。両者は、2018年にデュオ作『Faroe』をリリースし、グラミー賞の最優秀インストゥルメンタル・ジャズ・アルバム賞にノミネートされた。プロウが「夜のためのアルバム」という本作は、ふたりの創意あふれるプレイが自然に融合し、柔らかなサウンドスケープを描き出す。息の合ったふたりならではの作品だ。


Pat Metheny/Dream Box

近年は作曲家としての仕事が注目を浴びていたメセニーが、アコースティック・ギター、バリトン・ギター、エレキ・ギターなどを多重録音して作ったというアルバム。サウンドは透明感のあるクリーン・トーンながら、録音のせいか良い意味での雑味があり、ザラザラした手ざわりは何度聴いても耳に心地よい。未だに前進を止めない御大メセニーの音楽的好奇心が結実した一枚。後続への多大なる影響力示す作品、とも言えるだろう。


Rachael & Vilray/I Love A Love Song!

女性シンガーのレイチェル・ブライスと、ギター/ヴォーカル/作曲家のヴィルレイが組んだデュオ・アルバム。1930年辺りにタイムスリップしたような、スウィンギーな楽曲が並んでいる。オリジナルもあるが、ベニー・グッドマンやサラ・ヴォーンが取り挙げたスタンダードが、現代的な空気を吹き込まれているのが面白い。その意味では、カーメン・マクレエにも通じる存在かも。なお、レイチェルはレイク・ストリート・ダイヴの一員だ。


Ralph Towner/At First Light

ラルフ・タウナーはECMの三大ギタリストのうちのひとりとされ、御年83になる傑物。今回も同レーベル特有のクリスタル・サウンドが根っこにありながらも、彼にしか出せない清冽で美麗な音色を聴かせる。使用されているのはクラシック・ギター1本で、全曲ラルフの独演。自作曲の他、ホーギー・カーマイケルのカヴァーなどを収録している。セルフライナーでラルフは、ジョン・コルトレーンからの影響について述べている。


Ray Vega & Thomas Marriott/East-West Trumpet Summit Coast To Coast

ファンキー・ジャズやハードバップなど、50~60年代のジャズシーンの空気が真空パックされたような作品。ピアノ・トリオにトランペット×2という編成で、けれん味のないストレートアヘッドなジャズを奏でるが、ラテン音楽のエッセンスが端々から滲み出ているのが要注目。リー・モーガンやマイゼル・ブラザーズが好きな人はもちろん、ジャズ初心者に入門編として差し出してもいいだろう。明快でキャッチーなサウンドが耳を惹く。


Rezavoir/Rezavoir

シカゴを拠点とするプロデューサー/マルチ奏者=ウィル・ミラーが率いるジャズ・コレクティヴの2作目。土台にあるのはジャズだが、即興の要素やソロの比率はさほど高くない。むしろ、アンビエトやドリーム・ポップの要素が濃厚で、チル・アウト・ジャズとでも言うべき特異な音像を創出している。特に、自在に変化するシンセサイザーの音色にしばし陶然とさせられた。肩の力が抜けたうたものも素晴らしく、早くも次作が楽しみだ。


Rob Mazurek – Exploding Star Orchestra/Lightning Dreamers

トランペット奏者のロブ・マズレクが率いるリーダー作。冒頭から不穏なブレイクビーツにジェフ・パーカーのフリーキーで面妖なギター・ソロが加わり、いきなりクライマックスに。その後も、電化時代のマイルス・デイヴィスを想わせる混沌としたサウンドが渦を巻き、リスナーを忘我の境地へと誘う。特に鍵盤のクレイグ・テイボーンの存在感は大きい。故ジェイミー・ブランチ(tp)も参加しており、彼女へのトリビュート的な作品とのこと。


Sebastian Rochford/Short Diary

これがECMからの初リーダー作となるイギリス人ドラマー=セバスチャン・ロックフォードが、鍵盤奏者のキット・ダウンズと協働した作品。ECM特有のリバーブがかかったサウンドは相変わらず透明だ。ふたりの共通言語となるのはジャズだと思うが、アンビエント的なフィーリングもあり、ブライアン・イーノやマイケル・ナイマン、モートン・フェルドマンらの作品とも共振する内容。音数は少なく、心の揺れを沈めてくれるような効果も。


Stacey Kent/Summer Me, Winter Me

コケティッシュでチャーミングな歌声を聴かせる女性シンガーの2年ぶりの新作。ヴォーカルは情感豊かだが、リラックスして歌っているのだろう。決して息苦しくならず、むしろ開放的な空気が流れている。弦楽四重奏が加わる曲でも大仰にならず、ナチュラルに曲中に挿んでいる印象だ。日本の中村佳穂が好きな人も気に入るのではないか。ライヴでも度々演奏されてきたという、アントニオ・カルロス・ジョビン「コルコヴァード」のカヴァーが秀逸。


Yussef Dayes/Black Classical Music

トム・ミッシュと共演アルバムをリリースするなど、UKジャズの興隆に貢献するユセフ・デイズの初アルバム。シャバカ・ハッチングスやマセーゴなどをゲストに迎え、ジャズやロックやファンクと汎アフリカ的音楽が継ぎ目なく繋がったサウンドを創出。黒人と少数民族が参加したチネケ!オーケストラが参加しているのも重要だろう。ユセフは多楽器奏者だが、本作の軸となるのが彼のタイトで引き締まったドラムなのは間違いない。

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