投稿日 : 2017.12.22 更新日 : 2020.07.22
【東京・恵比寿/Sailin’ Shoes】伝説の証人がいる音楽酒場へ
取材・文/富山英三郎 写真/高瀬竜弥
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「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回は音楽好きに愛される恵比寿の『Sailin’ Shoes(セイリン シューズ)』を訪問。この店に洋邦のロック~ポップス愛好者が集まるのは、音楽にまつわる仕事に長くたずさわってきた店主だからこそ。その経歴を聞けばいろいろと納得できるはずです。
すっきりシンプル。居心地のいい内装
恵比寿駅(東京都渋谷区)から徒歩5分ほど、恵比寿西の五叉路近くにある『Sailin’ Shoes(セイリンシューズ)』。一部の音楽マニアにとっては高名な店だが、あまりメディアに登場することのない“隠れた名店”とも言えよう。ビルのエントランスを通り、BARと書かれた赤い照明を目印に地下へ降りていくと、薄明かりのなかボブ・ディランとルー・リードの写真が出迎えてくれる。店内はすっきりとシンプルな作りで、カウンターに腰掛けながらゆっくりと、またはスタンディングやハイスツールで気軽にお酒と音楽を楽しむことができる。
「高校生の頃から、歳を取ったらバーをやりたいと思っていたんです。でも、今日まで息も絶え絶えの13年間。お客さんに支えられて、なんとか持ちこたえていますよ」と店主の波岡淑朗さんはうそぶく。というのも『セイリンシューズ』は、音楽好きの若者をはじめ、往年の音楽関係者や有名ミュージシャンまでもがやってくる店だからだ。
波岡さんは大学受験を失敗して挫折、20歳で上京してレコード店でアルバイトを始める。その後、音楽本の制作を手伝う機会があり、それが縁となって南青山にあった伝説のレコード店『パイド・パイパー・ハウス』で働くことになる。
『パイド・パイパー・ハウス』時代
「そもそも品揃えが自分に合っていたし、ミュージシャンとか面白い人たちがたくさん出入りするような憧れの店だったから。誘われたときはふたつ返事ですよ」
細野晴臣や山下達郎、南佳孝、佐野元春などが常連だったことで知られる『パイド・パイパー・ハウス』は、波岡さんにとって刺激的な場所だった。
「みんな最新の情報をそこで得ていましたよね。筒美京平さんやユーミンの事務所の人たちがまとめて買いに来たり。なかでも、京平さんの買い方はすごかったですよ」
波岡さんはイギリスのB級バンドが好きだったこともあり、ニューウェーブ担当に。その縁で鈴木慶一との交流が生まれ、ムーンライダースのオフィスにレコードを配達するようにもなっていく。
「お店に行くのが毎日楽しかったね。一昨日、珍しく南佳孝さんが遊びに来てくれたんだけど、彼も当時からのつきあい。ラジオ番組も何年か一緒にやりました」
『パイド・パイパー・ハウス』は1989年に閉店するが、波岡さんはその2年前に辞め、別のレコード店の店長となる。しかし、その親会社とは経営方針に大きな違いがあり、ストレスの溜まる日々を過ごした。その後、同店が閉店したことをきっかけに、ラジオの選曲・構成作家へと転身する。フリーランスとして、各局の帯番組からアーティストものまで幅広く手がけ、夜は西麻布のクラブ『トゥールズバー』で桑原茂一などとDJをしたりもしていた。そんな日々を過ごし、満を持して51歳のときに『セイリンシューズ』をオープンする。
「バーをやるにあたって相談したのは、鈴木慶一さんと中川五郎さんかな。別れた奥さんが靴のデザイナーだったから、敬意を表して靴を意味する名前にしたくて。リトル・フィートのアルバムから付けたんです」
もちろん、音楽だけではない。
「自分がよく行っていた店の、好きだった味を教わったり。あとは銀座でバーをやっている人にも習いましたよ。でも、ウチはオーセンティックなバーじゃないから、難しいことは言わないでね(笑)」
いまも敬愛する“音楽の先生”たち
波岡さんの音楽遍歴は、中学でローリング・ストーンズやジミ・ヘンドリックスなどロックを聴き始め、高校でソウルからジャズへと興味が広がっていった。
その経歴からもわかるように、波岡さんの音楽的な守備範囲は広い。しかし、バーをやるにあたって幅広くなり過ぎるのもよくないと考え、レコードラックには大きく分けて、ソウル、邦楽、ジャズ、ロックが並べられている。
「ロックバーと言われることも多いけど、ポップスバーなんじゃないかな。ジャズも自分ひとりのときはよくかけますよ。昔から好きなのはウェイン・ショーター、彼のおかげでミルトン・ナシメントを知れたし。あとは、最近またマイルス・デイヴィスがいいなと思っていて。新譜だとブライアン・ブレイドが良かった」
音楽の原体験は、小学生の頃にラジオ『9500万人のポピュラーリクエスト』で流れていたビーチボーイズの『グッドバイブレーション』。その後は『亀渕昭信のオールナイトニッポン』など、音楽が多く流れるラジオをむざぼるように聴き、洋楽全般を愛聴していった。最初に自分のお金で買ったEPはブラザース・フォー、アルバムはホセ・フェリシアーノだったとか。
「日本のロックはずっとかっこ悪いと思っていたけど、高校生の頃に深夜放送で流れたはっぴいえんどだけは、”あれっ?”と思ったよね。レコードを買ったら、中袋に彼らが影響を受けたアーティストがずらっと書かれていたけど、ほとんど知らなくて。今でも細野さんが音楽の先生だと思っていますよ。あとは亀渕さん」
営業中はお客さんを見ながら選曲をしていく。会話のなかで好きなアーティストや曲の話になったら、少し時間を置いてからかけてあげたりといったサービスも。また、取材時は12月ということもあり、カウンターにはクリスマス仕様のジャケットが飾られていた。月に一度テーマを変えながら入れ替わるので、足を運んだ際は是非チェックしてみてほしい。ジャケットをきっかけに話が弾むことも多い。
- ※2020年7月21日、闘病されていた波岡淑朗氏が亡くなられたようです。ご逝去の報に接し、謹んでお悔やみ申し上げます。
- ・店舗名/Sailin’ Shoes
・住所/東京都渋谷区恵比寿西2丁目8−6 ウエスト2ビル B1
・営業時間/19:00~02:00 - ・定休日/日曜
・電話番号/03-3464-2433
・オフィシャルサイト/https://www.facebook.com/SailinShoes/
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