投稿日 : 2024.06.07

楽器の個人練習はどこが最適? スタジオ、カラオケルーム、貸し会議室… 【ジャムセッション講座/第24回】


これから楽器をはじめる初心者からふたたび楽器を手にした再始動プレイヤーさらには現役バンドマンまで、「もっと上手にもっと楽しく演奏したい皆さんに贈るジャムセッション講座シリーズ。

今回は連載開始から2年が経ったので、久々に近況報告会。この1年を通して学んだことや、ジャムセッションの現場で感じたことを、 ”いまだに” ギタリストとして参加していないライター千駄木と、担当編集者が語り合います。

【今回の登場人物】

編集サトウ
編集者 ヤマシタ
本誌編集者。40代男性。ライター千駄木とともに当連載企画をスタート。音楽はジャンルを問わずなんでも聴く。ライター千駄木に無理難題を吹っかけて楽しむ悪人。

千駄木雄大

千駄木雄大(せんだぎ ゆうだい)
ライター。30歳。大学時代に軽音楽サークルに所属。基本的なコードとパワーコードしか弾けない。セッションに参加して立派に演奏できるようになるまで、この連載を終えることができないという苦行を課せられ執筆中。ギターを上達させるために社会人軽音サークルに入ったが、「声量がある」「パフォーマンスができる」ということで、結局ボーカルになってしまった。

ライター千駄木はこの1年でどれくらい成長したのか

千駄木 大変なことになりました。

編集 急にどうしたの?

千駄木 この連載も始まってから2年が経とうとしているのに、僕、一向にジャムセッションに参加しようとしていないじゃないですか。

編集 小岩「BACK IN TIME」の初心者向けギターセミナーに参加連載 第14回)したじゃない。

千駄木 あれはセミナーですから。

編集 「カフェテラオ」のボーカルセッションにも参加連載 第16回)したじゃない。あれは立派なジャムセッションでしょ。

昨年9月、「カフェテラオ」(東京都渋谷区)のボーカルセッションに参加した千駄木記者。

千駄木 あのときはボーカルですから。僕やっぱりギターで参加したいんですよ。ただ実力が追いついていないのと、そもそもテンションコードを押さえられないし、覚えられないので、まだ躊躇しています。

編集 それ1年前と同じセリフだぞ。

千駄木 そうなんです。それほどにジャズの演奏はハードルが高い。ということを、この2年で読者の皆さんにリアルにお伝えできたと思います。

そもそも、僕はギターを弾きますがギターボーカルだったので、基本バッキングなんですよ。細かいソロとか覚えられなくて。ちなみに、大学時代に所属していた軽音サークルの友人たちが、この連載を読んでくれていて「今度、ジャムセッション経験のある千駄木を中心にスタジオに入ろう」という話が持ち上がったんです。

編集 おっ、いいね。みんなでこの連載のジャムセッションに参加してみてよ。

千駄木 いや、みんなに「千駄木は経験者だからジャムセッションの作法にめちゃくちゃ詳しい」と思われているのに、いざスタジオに入ったらテンションコードもスケールも弾けず、仲間たちからの信頼を失ってしまう。それが怖いんです。

編集 後回しにしていたツケが回ってきたな。

音楽スタジオの個人練習プランを活用せよ!

編集 とりあえずスタジオに入るまでに、たくさん自主練習すればいいじゃん。ちゃんとやってる?

千駄木 毎日、練習していますよ。自宅は「楽器演奏可」の物件ではないので、アンプを通さずに生音でエレキギターを弾いています。でも、たまには大きな音を出したいので、近所の音楽スタジオにも通っています。

昨年8月、「BACK IN TIME」(東京都江戸川区)の初心者向けギターセミナーに参加した千駄木記者。

編集 でもスタジオって4〜5人程度のバンド単位で入るのが基本だから、一人だと高くつくんじゃない? 通常は1時間で3000円くらいはするよね。

千駄木 それが、ほとんどの都内のスタジオには「個人練習プラン」があるんですよ。

編集 あ、そうなんだ。相場はどれくらい?

千駄木 だいたい1時間600〜900円程度ですね。例えば「スタジオノア」の場合は、利用日の前日の21:00以降に予約することが可能です。僕は仕事が早く終わった日の夜によくスタジオに入るのですが、当日であっても空室があればすぐに案内してもらえます。あと、「音楽館」とか「スタジオペンタ」などの有名スタジオも、夜か午前中であれば簡単に予約が取れますよ。

「スタジオ ノア」は首都圏を中心に展開する音楽スタジオ。1〜2名での使用を対象にした「個人練習料金」も設定されており、オンラインでの予約・支払いなどサービス内容も細やか。

編集 予約は直接電話をかけて、空いている時間を聞くというイメージなんだけど、今もそんな感じ?

千駄木 スタジオペンタは従来通りの電話ですが、音楽館はアプリ、スタジオノアはサイトがあって、好きな地域のスタジオと時間を入力して、検索するだけで空き状況が確認できます。

スタジオノアは都心に多いイメージですが、僕がよく行く吉祥寺店は都心から少しだけ離れているおかげで、基本的に夜は個人練習入り放題です。

編集 便利な時代になったね。というか、千駄木くん、谷根千(谷中・根津・千駄木)あたりに住んでるわけじゃないの?

千駄木 吉祥寺ですね。「千駄木」というペンネームは、副業が認められているかどうかわからない会社員時代に、この「ARBAN」で記事を書くために、慌てて本名から程遠い苗字を付けたんですよ。

編集 顔バレしないように変装したりな(笑)

千駄木 だから、まさかこの適当に付けた名前で本を出したり、この風貌でテレビに出るとは思っていませんでした…。

編集 ごめんな。俺と出会ってしまったばっかりに…。

↑『AMEMA Prime』出演時の千駄木記者。シリアスな討論テーマ(奨学金問題)なのに、「見た目のインパクトが強くて話が入ってこない」と出演者から指摘され、スタジオに笑いが起きてしまう。これもすべて「ARBAN」のせいだ。

カラオケやレンタル会議室…練習場所いろいろ

編集 大手のスタジオでそういったプランがあるのはわかったけど、地元に根差した小規模スタジオみたいなところも個人練習プランはあるの?

千駄木 最近は独りで練習する人が増えたのか、そういったプランをよく見かけますよ。ただ、スタジオは確実に空いているとは限らないので、それ以外の練習場所も探す必要があります。その代表例がカラオケボックスですね。

編集 それよく聞くけど、カラオケ部屋の防音設備は大丈夫?

千駄木 たまに大声で歌っている人の声が聞こえてきますが、あまり気にならないですよ。ちなみにカラオケボックスにはアンプがないので、僕はエレキではなくアコースティックギターを持ち込んでいます。

編集 カラオケで楽器の練習する人を見かけることある?

千駄木 ありますよ。僕と同じようにギターの人を見かけることもあるし、たまにバイオリンのケーストランペットケースを背負っている人とも遭遇するので、アンプを使わない楽器の人にしてみれば、カラオケはかなり便利なのだと思います。

僕は昔ながらのコンテナハウス型のカラオケルームを使っているので、周囲のことを気にせずジャカジャカ弾けます。

編集 「ジャカジャカ」という表現をジャズではあまり使わないと思うんだけど……。

千駄木 あと、僕はギターの練習が一息ついたら原稿も書きたいので、少し値が張りますが、レンタル会議室を検索・予約できるサイトで部屋を探すこともあります。

編集 ああ、「インスタベース」とか「SPACEMARKET」みたいな検索サイトで。

千駄木 そこで「楽器演奏可の部屋を探して、仕事と楽器練習を一緒にやったり。そういう部屋って、駅チカの謎のビルの2階以上にあったりして「探検気分」も味わえるのですが、なによりも「レンタル会議室」を利用しているので、確定申告のときに経費として計上できるんですよ!

編集 おまえが税務署と揉めても俺は助けないからな。

千駄木 じゃ「楽器練習も仕事です」と言えるように実績を出すしかないですね…。まずは「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」を弾けるようにがんばります。

まずは “気軽な飲食店”として利用してみよう

編集 ところで、千駄木くんの友達の「軽音サークルの元メンバーたち」は、なんでこの連載にたどり着いたの?

千駄木 彼らは僕よりも断然ジャムセッションに興味がある人たちなのですが、一方で「どのお店に行けばいいのか?ということがわからなかったそうなんです。そこで、Googleで「ジャムセッション」と検索すると、上から4番目にこの連載の第5回ジャムセッションやるなら知っておきたい7店〈東京編〉」が表示されるんですよ。

↑ジャムセッション界隈で有名な店「Jazz Spot イントロ」(東京都新宿区)取材時の様子

編集 つまり、ジャムセッションに関心がある人の多くは「ジャムセッションができる場所を知りたがってるわけだ。だったら、この連載でも紹介した検索サイト「今日ジャズ」を使えばジャムセッションできるお店なんて、一発でわかるんじゃないの?

千駄木 いや、これから始める人たちは「今日ジャズ」に、まだ辿り着けないなんですよ。

編集 なるほど。そこで、ジャムセッションの王道の店を紹介している、うちの記事が読まれているわけね。

千駄木 ありがたいことなのですが、ひとつこの記事で発言を撤回したい箇所があるんですよ。

編集 ん? 営業時間が変わったお店でもあった?

千駄木 いや、この記事の「ライター千駄木が今回の取材で学んだこと」の項目に、「まずは自分が住んでいる街 + ジャムセッションでググれ」と書いたんです。

編集 ああ、自宅の近所を探せばジャムセッションできる場所が必ずあるから、まずはそこに行ってみよう、って提案ね。それじゃダメなの?

千駄木 必ずしもそうとは言い切れない、ってことがわかってきました。じつはこの連載で何度か、郊外や住宅街にあるお店に取材オファーをかけたことがあるのですが、ほぼ断られたんですよ。

編集 中央線沿いのお店とかね。

千駄木 なぜだろう? と思って、断られたお店のSNSをまめにチェックしてたら、ある傾向が見えてきまして。

編集 どんな?

千駄木 まず、来客のほとんどが常連さんで、セッションも内輪ノリの雰囲気が強い。仲間内だけで、すでに出来上がった “アットホーム感” のあるお店が多かったんです。そこにワケのわからない連中が「取材させてください!」とやって来られるのは嫌だったのでしょうね。

編集 なるほどな。取材してもいいですけど、仲間内の飲み会を取材してどうするんですか? みたいな感じもあるだろうし、自分たちのコミュニティを荒らされたくないという思いもあるのかもしれない。

逆にいうと、そのコミュニティに自分も溶け込んでしまえば、快適なセッション環境を獲得できるわけだよね。だから、いきなり勇気を出してセッションに参加したところで、逆に疎外感を味わって終わってしまう可能性もあるから。

千駄木 そうなんです。だから一見アットホームな近場の小さなお店が、必ずしも新規の客向けではない、ということなんです。だから、いきなりセッションに参加するのではなく、まずは飲み屋とかメシ屋として通うなどして、顔を覚えられるのが第一歩。そこからフェードインしてセッション参加に漕ぎ着けるのが得策だと思います。

“ジャズマニアのおじさん”はなぜ嫌われるのか

編集 ほかに、最近わかった新たな情報ってある?

千駄木 前回の田中菜緒子さんのインタビューで出てきた “独善的ジャズ啓蒙おじさん” みたいな人が結構いることに驚きました。

編集 ああ、ビギナーに対してジャズ知識でマウンティングしたり、自慢話自分語りを延々と繰り広げたり、自分の価値観を押し付けてくるジャズマニアのおじさんたち。

千駄木 その実態をもっと詳しく取材してみたいですね。以前にこの連載で “マウンティングおじさん” に触れたときも反響が大きかったですから。きっと、多くの人が「そうそう! いるいる!!」って感じたのだと思います。

編集 ただ、そういう人って昔からいるし、ジャズだけでなくあらゆる趣味の分野に存在してるからね…。

千駄木 それでもジャズ業界はちょっと異常というか…、先鋭化されたマウンティングおじさんが多いと感じました。もはやアドバイスではなく、男性が女性を見下したような態度で物事を解説するマンスプレイニングに近い感じもするんですよね。

編集 確かに、若い女性ミュージシャンに話を聞くと、かなり多くの人が「面倒なおじさんに絡まれて困った」って経験をしている。これはプレイヤーだけでなく、普通のジャズファンからも同じような話を聞くね。

千駄木 なぜ、ジャズおじさんは若い女の子を啓蒙したがるのか…。育成シミュレーションゲームの『アイドルマスター』感覚なんですかね。「彼女の音楽性に影響を与えた男になりたい。そして、あわよくば付き合いたい」みたいな。

編集 決して悪意はないと思うんだよ。当人は「俺が “正しいジャズに導いてあげる」という親切心で言ってるわけだから。

千駄木 それは親切なのか、お節介なのか…。

編集 もちろん「尊敬されたい」とか「優越感を得たい」みたいな欲望もあるだろうけどね。まあ、とにかく “ジャズ啓蒙おじさん” とか “ジャズ・ポリス(警察)” や “ジャズ教えたがりおじさん” みたいな人たちって「ジャズ知識を披露して尊敬されたい、感謝されたい、気持ちよくなりたい」っていう欲望を抑えきれず、ついついお節介マウンティング自慢話をしちゃって、煙たがられるんだろうね。

マニアは “自分の趣味” を語りたい

千駄木 っていうか我々もこうして “困ったジャズおじさん” について、まるで上から目線で語ってるわけですから、どうしようもないですよね。向こうとしても余計なお世話でしょうし。なんか、すいません。マウンティングおじさんをマウンティングしてしまって。せっかく同じ趣味を持つもの同士なんだから、みんな仲良く楽しみたいですよね…。

編集 以前、取材でとあるバーに行ったことがあって。そこは立ち飲みのワインバーとガールズバーが合体したみたいな感じのお店なんだ。店内では “ワインのうんちくを語りたいおじさん” が高そうなワインを注文して、店の女の子と一緒に飲んでるの。

で、おじさんは女の子に「この赤ワインは〇〇っていう品種の葡萄を使っていてね〜」とかクダを巻きながら、女の子たちも「すご〜い! おいしい〜」とか煽てて、高いワインがパカパカ開いていく。めっちゃ儲かってるんだよ。

千駄木 しかもそれ、みんなが幸せじゃないですか。ワインマニアのおじさんはワイン話や自慢話を語って、褒められて、気持ちよくなって。店員の女の子はいいワイン飲めて、店は高いワインがどんどん売れて。

編集 そうなのよ。世のおじさんたちは “自分の趣味の話を披露して気持ちよくなれる場を求めてるんだ。そこは “ワインうんちくおじさん” も “ジャズうんちくおじさん” も同じだと思うんだよね。

千駄木 ってことは、「女の子たちにジャズ話を存分に語れるお店」というガールズバーやコンセプトカフェを作ったら儲かるんじゃないですか? 店員はみんなジャズにちょっと興味のある女の子、という触れ込みで。

編集 ワインおじさんは高いワインを買ってくれるけど、ジャズおじさんには何を買わせるんだ?

千駄木 リクエストで金とるってのはどうですか? 女の子に「このアルバム聴きながら、解説してほしいですー」とか言わせて。あと、女の子にプレゼントするレコードをその場で売るとか。

編集 無理だろ。

千駄木 じゃ、聴くだけでなく、参加費払ってみんなで演奏もできる、ってのはどうですか?

編集 それジャムセッションだろ。

構成・文/千駄木雄大

ライター千駄木が今回の取材で学んだこと

①個人練習するための場所はたくさんある
②近所のジャムセッションの現場は入りにくそう
③だから、まずは「飲み屋」として入ろう
④ジャズ知識をひけらかすのもほどほどに
⑤“ジャズおじさん”を嗤う我々も大概

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