投稿日 : 2024.06.28

【東京・阿佐ヶ谷/バーフジヤマ】1950〜70年代を中心とした オールジャンルな音が楽しめるミュージックバー

取材・文/富山英三郎  撮影/高瀬竜弥

バーフジヤマ_写真10
いつか常連になりたいお店 #81

「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回は阿佐ヶ谷(東京都杉並区)にあるミュージックバー/レコードバーの『バー フジヤマ』を訪問。宇野亞喜良氏描き下ろしの看板からも匂い立つ非日常な空間。その背景には、とあるバンドマンが関わっていました。

ドレスコーズ 志磨遼平さんの意匠によるミュージックバー

高円寺と並び、中央線の人気スポットとして知られる阿佐ヶ谷(東京都杉並区)。駅前には活気ある商店街があり、飲食店もひしめき合っている。そんな阿佐ヶ谷駅北口から徒歩2分、阿佐ヶ谷スターロード商店街の雑居ビル2Fにあるのが『バー フジヤマ』だ。

バーフジヤマ_写真1

2024年1月末にオープンした同店は、ドレスコーズの志磨遼平さんが意匠を手がけ、所属事務所であるスプートニクラボが経営するミュージックバー/レコードバーとなっている。店長を勤めるのは、ドレスコーズの前身バンドである毛皮のマリーズでドラムを叩いていた富士山富士夫さん。

「ある日、僕が勤めていたダーツバーが閉店することを聞きつけて、志磨が突然やってきたんです。そのときに、冗談半分みたいな感じで “これからどうすんの? バーでもやる?” なんて話になって。それを事務所の社長に話したら意外にもノリノリで、本格的に動き出した感じです」。そう語るのは店長の富士山さん。

バーフジヤマ_写真2

当初は高円寺で考えていたがよい物件が見つからず、打ち合わせを兼ねていくつかの街で飲んでいるうち、阿佐ヶ谷の雰囲気を気に入ったという。

「お客さんに聞いても長年住んでいる人が多くて、それだけでもいい街だとわかりますよね。お店が2Fということもありますが、迷惑な酔い方をする人も少なくてお酒に対しては大人な街だと思います」

黒を基調としたアンダーグラウンドな空間

店内はカウンター8席と、2人がけのテーブル席×2 が用意されている。内装は黒で塗り尽くされ、飾られている写真やインテリアからは退廃的なエッセンスが感じられる。

バーフジヤマ_写真3

「このイメージは完全に志磨によるものです。何かの小説の主人公が黒い部屋に住んでいて、その雰囲気を表現したみたいです」

お店の看板およびコースターは、日本を代表するイラストレーター、グラフィックデザイナーの宇野亞喜良氏による描き下ろし。「バー フジヤマ」は世界観が作り込まれているので、お店に入った瞬間に街の喧騒を忘れることができ、非日常の空間に浸ることができる。

バーフジヤマ_写真4

音響は1970年代のコーラル(福洋音響)のスピーカーに、自作の真空管アンプ、ターンテーブルはテクニクスのSL-1200 MK3という組み合わせ。丸みがありながらもクリアな中低音域、高音域は煌びやかで、全体的に温かみのあるサウンドなので聴き疲れしない。

バーフジヤマ_写真5

「お客さんの雰囲気を見ながら選盤して、基本的にはアルバム1枚をかけています。自分なりの流れを作りながら、あとはボリュームを気にしながらですね。頼まれればリクエストにも応えます」

1950〜70年代を中心としたオールジャンルなセレクト

レコードはすべて志磨遼平さんのコレクション。1950~70年代のロックやソウル、邦楽が中心だが、ゲンズブールのようなフレンチやジャズ、オーセンティック・スカなどもあり幅広い。90年代後半から00年代前半のDJバーや、当時のアンダーグランドカルチャーがわかるようなセレクトとも言えるが、それを一言で表現するのは難しい。「バー フジヤマ」のInstagramには、お店のレコードの写真がアップされているので、そちらをぜひチェックしてみてほしい。

「僕は音楽については詳しくないんですよ。レコード棚にはSEASONSのコーナーがあって、そこは季節ごとに志磨が入れ替えています。あとはSTANDARDのコーナーと、ロックはAtoZになっていて、その他、邦楽とかジャズとかに分かれています」

バーフジヤマ_写真6

ドラム未経験でバンドに参加し 現在はバーの店長

かつての人気バンドのドラムが、音楽に詳しくないというのに違和感がある。しかし、そこにはユニークな理由があった。富士山さんは高校卒業後にお笑い芸人を目指して長崎から上京。人力舎の養成所を経て芸人となるが、ほどなくして解散。アルバイトをしながらフラフラしているとき、バイト先の仲間から突然バンドに誘われることになったのだ。

「ドラマーが失踪したので、いろいろ探していたようなんです。当時はザ・ストゥージズやMC5のようなアーリー・パンクに傾倒していて、上手いドラムよりも大きい音で叩ければOKみたいな。未経験でもいいということで、僕に白羽の矢が立ったんです」

バーフジヤマ_写真7

半ば強引にスタジオに連れて行かれ、気づいたらドラマーとして参加していたという。とはいえ、解散までの約7年の間にバンドはあれよあれよと人気になったのだから数奇な運命だ。

「高校時代はスピッツやミスチルが好きでした。音楽を深く掘り下げた経験はないですが、バンド時代はツアーのときにみんながいろんな音楽をかけていたんで。そういうのを聴きながらいい曲だなぁとは思っていました」

バーフジヤマ_写真8

音楽に詳しくなくても楽しめるお店

富士山さんと話していると、ほんわかと柔和な雰囲気に包まれていく。そんな人柄もあり、お客さんの多くは「音楽にストイックではないから気軽に来られる」という意見が多いとか。非日常な空間の中で、リラックスしながらいい音楽が楽しめ、会話も弾むというのは最高だ。

「ひとりで来られているお客さんには、タイミングを見て話しかけるようにしています。そのうちに、お客さん同士で話が弾み始めたりするのは嬉しいですね。今の雰囲気のまま続いていければいいなと思っています」

ビールやウイスキー、カクテルといったものはもちろん、ナチュール系のワインも楽しめる「バー フジヤマ」。阿佐ヶ谷に行った際にはぜひ足を運んでみてほしい。

バーフジヤマ_写真9

取材・文/富山英三郎
撮影/高瀬竜弥


・店舗名 バー フジヤマ
・住所 東京都杉並区阿佐ヶ谷北2-2-7 喜楽ビル201
・電話番号 03-5364-9314
・営業時間 20:00〜26:30、16:00〜23:00(日曜)
・定休日 月曜(祝日・連休は営業。その場合は翌日休業)

その他の連載・特集