投稿日 : 2024.12.27
【東京・経堂/NEAR MINT TOKYO】食・音・酒がハイレベルで共存する新たな震源地
取材・文/富山英三郎 撮影/高瀬竜弥
JBLいつか常連になりたいお店ヴィンテージトーレンスマッキントッシュミュージックバーミュージックレストランレコードバーレコードレストラン経堂
MENU
「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回は2023年11月にオープンした、経堂(東京都世田谷区)のレストラン『NEAR MINT TOKYO(ニア ミント トウキョウ)』を訪問。食・音・酒を極めるべく、東京〜NYを渡り歩いたオーナーシェフの志が詰まったお店でした。
商店街が充実した 暮らしやすい経堂にオープン
小田急線・経堂駅の北口を出て徒歩約3分、経堂すずらん通り商店街にある『NEAR MINT TOKYO(ニア ミント トウキョウ)』。東京では主要駅の多くが再開発され、家賃も高騰。さらに、飲み会が減ったなか、歩いて家に帰れるようなローカル駅のほうが盛り上がる傾向がある。経堂もまた住みやすいエリアとして人気となっており、評判のいい個人経営の飲食店が増えている。そんな商店街の一角にオープンしたのが同店だ。
「当初、自分が住んでいる幡ヶ谷も考えたのですが、すでに完成しているというかコミュニティがいくつかある。どうせやるなら、これから盛り上がりそうな街で、自分が新たなコミュニティを作るくらいの気持ちでやりたかったんです」。そう語るのは、オーナーシェフの渡辺 優さん。
1981年生まれの渡辺さんは、「音楽と食事とお酒のレベルがすべて高いお店をやりたい」と大学生で決心したという。
「大学時代に趣味でDJをしていましたが、誰も知らない曲をかけることに喜びを感じるタイプだと気づいて、これは向いてないなと(笑)。そんなとき、DJバーだったり、DJブースのあるダイニングバーに行ったら、食と音が共存している空間の面白さに気づいたんです」
一般企業の営業職も考えたが、自分が良いと思えないものは売れない性格であることにも気づく。それならば、自分が良いと思う食事を提供して、自分が良いと思う音楽をかけるお店を作りたい。そこから、『NEAR MINT TOKYO』オープンまでの長い道のりが始まっていく。
東京〜NY 多くの店で 食・音・酒の研鑽を積んで独立
大学卒業後は料理の専門学校へ通い、南青山のフレンチで4年半修行、NYへ渡り1年食べ歩き、日本に戻りブルーノート東京で2年・系列店で2年、さらに清澄白河の中南米料理店で2年修行した。そこからさらに5年間NYに渡り、オイスターバーの立ち上げにも尽力する。
「料理に関してはすでに自信はありましたが、音楽面がまだ弱いと思ってNYに行ったんです。というのも、イベントで知り合った若いDJが、僕より音楽に詳しいことがショックで。いつの間にか、音楽が疎かになっていたなと思ったんです」
このエピソードから、渡辺さんが妥協を許さないタイプであることがわかる。渡米のきっかけは、現在『Face Records』(渋谷を本店とする中古レコード店)のNY店・店長をしている間宮氏。NYでミュージックバーをやろうとしている米国在住の日本人を、彼から紹介されたことが発端だ。
「結局、ミュージックバーのほうはいろいろと難航して。その間にNYで日本人の友だちができて、その彼とオイスターバーを立ち上げることになりました。同時期に、BIGYUKIとかロバート・グラスパーとか、多くのミュージシャンと出会う機会にも恵まれて、毎週のようにライブに行ったり。さらに、ミュージックバーを開こうとしていた人は音響マニアだったので、音響についても勉強するようになったんです」
すべてのパーツが揃い、ついに日本に戻ってきた。
「いや、まだお酒が弱いなと思って……。あとはインテリアの勉強もしたくて、渋谷の『The SG Club』に面接へ行ったんです」
『The SG Club』と言えば、バー好きで知らぬ者はいない世界的名店。しかし、渡辺さんはインテリアのかっこいいお店という程度で、背景は知らなかったという。
「バーなので料理人はいらないはずですが、オーナーがちょうど居酒屋形態の『ゑすじ郎 (SG Low)』をやろうとしていた時期で採用されました。近くにバーテンダーがいる環境だったので、食事に合うお酒について話を聞いたり、試飲したりしながら約3年働いて独立しました」
ついに、食・音・酒が揃ったことで『NEAR MINT TOKYO』のオープンとなる。ここでは、フレンチをベースにしながらスパイスやハーブ、チーズを巧みに使った「ニューアメリカン」料理をコンセプトにした。ニューアメリカンは、米国で検索ワードになるほどメジャーなジャンル。簡単に言えば、各国の伝統料理を現代的にアレンジしたおしゃれでイケてるレストランのことだ。
「子どもの頃からいろんな音楽が好きでした。料理もまた、いろんなジャンルを一緒にするのが面白いと思っていて。実際、フレンチやアジア、中南米などいろんなお店で修行してきたことも生かせる。人気なのは “イカ墨のフライドニョッキ” や、“シメサバと紅芯大根のマリネ” とかですね。基本的にはお酒に合うメニューが多いです。お酒はクラフトジン、あとはワインがよく出ます」
音楽を楽しみながら会話もしやすい音響システム
音響に関しては、JBL 4320のスピーカーに、プリアンプがマッキントッシュ C28、パワーアンプはMC-2500。ターンテーブルはトーレンス TD125、カセットテープデッキはティアックV9という構成。
「BGMとしての良い音を目指したので、ツィーター部分に音響レンズ入れて高音が抜けないようにしています。あくまでもお客さんの声が主役なので」
BGM仕様と言うが、温かみのあるぶっ太いサウンドでいい音が響く。気分が高揚しながらも会話はしっかり楽しめるので、コミュニケーションが円滑になり、結果的に最高の時間が流れる。
営業中はこれまでつくってきた約200のプレイリストの中から、当日の気分で選んでいる。フードのラストオーダーが終わるとレコードに切り替え、プレイリストの流れを汲んだ選盤、音楽好きのお客さんがいれば好みを見計らった選盤をしていく。
ちなみに、プレイリストの一部はSpotifyにアップされているので、音楽の方向性を知りたい人はそちらをチェックするとわかりやすい。基本的にはオールジャンルで、レア曲から有名曲、新譜までセンスよく並べられている。
「レコードは一般的に知られていないレアな名盤を揃えるようにしています。ソウル、ジャズ、ブラジルが多めです」
地下室に完成させた 新たな音楽の実験場
店内はアメリカンダイナー風のカウンター7席、場所ごと雰囲気が少し異なるテーブル席最大14席という居心地の良いサイズ感。さらに、この店には秘密の地下室があり、クラブのような音響実験室が完成したばかりだ。
床の扉を開け、階段を降りた先にはJBL 4311Bのスポーカー、ミキサーにロディック BX9、プリアンプはマッキントッシュC32、パワーアンプはマークレビンソンN27、ターンテーブルはSL-1200 MKⅢ、ベスタクスのPDX-2300がセットされている。
「フリージャズとかの生音、あとはダンスミュージックを流したくてマークレビンソンを置いたんです。お客さんが少なくて時間があるときには軽く案内しますが、まだどういう使い方をするかは決めていません」
食・音・酒、どの角度からでも新しい発見がある『NEAR MINT TOKYO』。最後に店名の由来について聞いてみた。
「店内はテーブルや椅子も含め、すべてヴィンテージで揃えています。ヴィンテージ好きなので、“コンディションが非常にいい中古”という意味のニアミント(NEAR MINT)にしました。
東京(TOKYO)に関しては、僕が遊んでいた90年代の情報源は雑誌かテレビしかなかった。あとは現場に行って、DJがかけているレコードを覗き見るしかなかったんです。でも、10代の自分にとってクラブは怖い場所で、勇気を出して行かないと情報が入らない。
今はネットでなんでも出てきますが、若い子たちの情報は“点”であって“線”になっていない。そういった意味で、ここに来れば “点の情報が線になる” というか……。90年代の東京の雰囲気を再現したような、ニアミント・コンディションの場所という意味もあるんです」
・店舗名 NEAR MINT TOKYO
・住所 東京都世田谷区宮坂3-19-1
・電話番号 03-6413-1474
・営業時間:17:00~23:00(フードL.O.22:30、ドリンクL.O.22:45)
・定休日:月曜
Instagram @near_mint_tokyo_