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【A CUP OF MUSIC】第3回 – 用賀『ウッドベリー・コーヒー・ロースターズ』編

この数年で増えてきた“スペシャルティコーヒー”の専門店。こうしたお店の多くが、コーヒーに対する見識のみならず、音楽やファッション、アートに対しても感度の高さを発揮している。そんな趣味人のコーヒー店主と、そこに集まる常連客がおりなす、コーヒー&音楽談義。

 今回訪問したのは、用賀(東京都世田谷区)にある『ウッドベリー・コーヒー・ロースターズ』。2012年、21歳で当店をオープンした木原武蔵さんは、2015年に2号店となる『Take it all』を出店。さらに、昨年は代官山に3号店『Perch』を開店させ、注目を集めている若手バリスタ/ロースターのホープだ。

 一方、この店の“常連客”としてご登場いただくのは、音楽レーベル『SWEET SOUL MUSIC』を手掛けるLIFE SOUND,INCのエグゼクティブ・プロデューサー小池仁さん。前職時代にはカフェの立ち上げや運営を数多く手掛けていたこともある小池さんがこのお店に惹かれた理由は、一朝一夕では築き得ない「バランス感」。そして「1枚のレコード」がきっかけだったそう。

人生を動かした1杯のコーヒー

小池 『ウッドベリーコーヒーロースターズ』に通い始めたのは、3年ほど前からです。コーヒーがおいしいのはもちろんのこと、音楽や内装、雰囲気、なんというか全部が「ちょうどいい」んですよね。イートインスペースもちゃんとあったりとか。

木原 ありがとうございます。こういう話聞くの、新鮮ですね(笑)

小池 個人がやってる、いいコーヒーショップやカフェが、僕の住む用賀にはありそうでなかったんです。木原さんがやってなかったら、自分がやりたかったぐらい(笑)。若くてここまでちゃんとやってて、すごいなぁと思います。木原さんは用賀が地元なんですよね?

木原 そうですね。高校まではこっちでその後稼ぎの良いコンサルティングファームへ就職したくてアメリカの大学に進学しました。

小池 アメリカでの学生時代に、コーヒーに魅せられた体験があったとか?

木原 カフェはもともと好きだったので、おいしいコーヒーを淹れてくれるお店を見つけてはよく通ってたんです。セミオートのエスプレッソマシンを使っているお店だったんですけれど、ある日飲んだ1杯が全然美味しくなくて。いつものバリスタとは違う人だったんです。同じ機械でもバリスタ次第でここまで味が変わるんだ、って発見と、自分で淹れたほうがいいじゃん! って理屈で、自分でもエスプレッソマシンを買って家でコーヒーを淹れるようになりました。

小池 美味しさに衝撃を受けて、というのがよくある話だと思うけど、逆なんだね(笑)。

木原 そこからどんどんのめり込んで、友人たちに振る舞ったりするようになりました。ただその時点ではまだ自分でコーヒーショップをやるぞ! とは思ってなくて。一生アメリカにいるつもりだったのですが、父親が病気になったのと、東日本大震災もあって、大学を休学して帰国したんです。

小池 なるほど。それがお店をオープンする前の2011年。

木原 実家を離れずに、用賀でやれることを考えていたときに、ここの物件が2〜3か月くらい空いてることに気付いたんです。もともとは不動産屋があったところで、友達の母親が働いてたので存在を知ってました。つまり先に物件を決めてから、コーヒー屋さんをやろうと思い立ったんです。

世界基準、新世代のコーヒーショップ

小池 焙煎は独学ですか? 誰かに教わったりとか。

木原 アメリカのスペシャルティコーヒーを扱うロースターは、垣根を越えてレベルを上げていこう、という気質があって。技術やレシピもオープンソースで、WEB上に各自が編み出したやり方を普通に載せているんです。そこを参考にしたり、スペシャルティコーヒー協会の勉強会や大会があるので、みんなで参加したり。そういうのをやっていくなかで、だんだんと、っていう感じですね。

小池 たまに、別のお店からバリスタが来たりしていますよね?

木原 ゲストバリスタですね。品質をキープする上で、自分たちだけだと味がぶれちゃうんです。外のひとを呼んで、味をみてもらって、焙煎ちょっとずれてるよとか。アドバイスをもらうことを定期的に行ってます。

「居心地の良さ」はどこから生まれるのか

小池 『ウッドベリー・コーヒー・ロースターズ』は、そうやってどんどん新しいことをやるよね。2店舗目(Take it all)も最初の頃は“1店舗目の縮小版”って感じだったのが、今はドーナッツを前に出してまた違った良さが出てて。

木原 1店舗目の内装もどんどん自分たちで手を入れて、最初と比べるとかなり変わっていますよ。常に「発展途上」ですね

小池 その感じが、言い知れない居心地の良さを生み出しているのかもね。かっこつけすぎずに、良い意味で隙があるというか。

木原 そうかもしれないです。改装中の店舗に使う木材とかそのまま置いてあったりしますからね。コーヒーに集中している結果そうなっているのですが、2店舗目の内装はお客さんと一緒に構想を練ったり、レコードに関しても「お前らもっとちゃんとレコード聴けよ!」みたいに教えてもらうことも多いです。

小池 なるほどなぁ。このお店は、街に「馴染む」って言葉がしっくりくるんだよね。用賀の街にすごく馴染んでると思う。

木原 そう言ってもらえるのは嬉しいですね。代官山店もキーワードは「ローカル」なので、ご近所に暮らしている人や働いている人はドリンク全品50円引きにさせていただいたり、そうすることで街に馴染むお店になれるといいなと思っています。

“らしくない音楽”が流れる理由

小池 スタイルや考え方は新しい中で、音楽はアナログレコードってところがまたいいよね。ターンテーブルは最初からあったの?

木原 いえ、途中からですね。レコードで音楽をかけはじめたのも、最初はかっこいいかな、くらいの軽い気持ちだったのですが、どんどんのめり込んで。機材も徐々にグレードアップしていて、ミキサーはいま四代目、スピーカーは三代目です。

小池 選盤はオールジャンルな印象があるけど、どうやって決めているの?

木原 スタッフの個人の好みがぶつかりあってる感じですね。各々が好きな音楽をかけています。

小池 自分がきたときはソウルがかかってることが多い気がする。大好きな『B.T.エクスプレス』がかかったときは、ここで聴けるとは……! って感動しました。こういったコーヒーショップでソウルとかファンクが流れるのって珍しいからね。

木原 その日の雰囲気によって音楽を選んでいるので、小池さんがくるときはソウルの空気感になるんだと思います。

お店で聴きたい3枚

木原 個人的な思い入れがあるもの、小池さんがきたときはこれかな、というものを選びました。1枚目(写真左)は、最近ハマっているFKJの『フレンチ・キウイ・ジュース』(2017年)。お客さんから教えてもらったのですが、一人であらゆる楽器を使ってグルーヴィーでかっこいい曲をつくるんです。ファンクやジャズの要素もあって、小池さんも気に入ると思います。

 2枚目(写真中央)は、オーストラリア・メルボルン発のバンド、コールド・ハンズ・ウォーム・ハートの同名アルバム(2016年)。元バリスタで、有名なコーヒーブロガーのアリソン・ボーン・ジョセフって友人の紹介で知りました。シンセサイザー、テクスチャーギター、ベース、ドラムのなかにハープの音が入っていて静かに高揚してくるような音ですね。ベースの女の子がかわいいのもポイントです。

3枚目(写真右)は、王道ですが、ロイ・エアーズの『エブリバティ・ラヴズ・ザ・サンシャイン』(1976年)。ソウルが好きなスタッフが持ってきたのですが、僕も好きになりました。スウェーデンの女性バリスタで最も有名なアンさんという方が、コーヒーの世界大会のプレゼンテーションで使っていた楽曲でもあります。

大好きなレコードを偶然お店で聴ける喜び

小池 1枚目(写真右)は既にこのお店にあるものですが、B.T. エクスプレスの『1980』(1980年)。ニューヨークの70年代のファンクバンドで、昔から好きでDJやるときもよく使ってました。ふとこのお店にきたときにかかっててすごく嬉しかった1枚です。

 2枚目(写真左)は、ロックにジャズの要素を持ち込んだといわれるスティーリー・ダンの『ザ・ロイヤル・スカム』(1976年)。二十歳のときに、目黒の『ブルース・アレイ』ってライブレストランでバイトしてたんですけど、そこのPAさんがかけててはじめて知ったんです。ライブハウスや音楽の仕事をする上で、ルーツになったアルバムです。

 3枚目は、レコードが無かったのですが、トム・ミッシュの『Reverie-EP』(2016年)。ここ数年、ニューヨークやロンドンなど海外のアーティストで、十代からトラックメイクしてSound Cloudに音源UPして、ボーカルも楽器も自分でやって、みたいな若手のひとがどんどん出てきていて。その代表格のような存在。新しい時代の才能を感じる、というところでこのお店に合うと思います。

1枚のレコードが廻る間に

 お互いに選盤を紹介し合うなかで「実際に聴いてみますか」「うわ、これかっこいい! まだ日本でCD出してなかったら、うちのレーベルで扱いたい」と、音楽談義に沸く両者。用賀という街に根付き、好きな音楽が一緒で、ともに空間づくりが好き。世代は違えど、共通項が多いからか二人の間柄はまるで旧知の友人のようでした。また木原さんがこの道に進んだことや、小池さんがお店に惚れ込んだこと。そのきっかけは、たった「1杯のコーヒー」と「1枚のレコード」でした。日々過ごす日常生活とは、そんな1枚のレコード身を委ね、1杯のコーヒーを嗜むだけでも変化を促すものなのかもしれません。

 

【プロフィール】

木原武蔵(写真左)
『WOODBERRY COFFEE ROASTERS』『Take it all -coffee and doughnuts-』『Parch』オーナーバリスタ。アメリカ留学時に現地の美味しいコーヒーとカフェ文化に触れて独学でコーヒーを学びはじめる。2012年に帰国し地元・用賀の街にウッドベリー・コーヒーを開業。続けて2015年用賀駅前に2号店となる『Take it all -coffee and doughnuts-』、2016年代官山に『Perch』をオープン。

小池 仁(写真右)
『LIFE SOUND Inc.』ゼネラルマネージャー。これまでにライブハウスやカフェ、フェスなどの空間プロデュースを多く手掛け、現在はソウル・ミュージックを中心とした音楽レーベル運営を行う。自身でもDJとしての活動経歴も持つなど、音楽に深い造詣を持つことでも知られている。

 

【Shop Information】
WOODBERRY COFFEE ROASTERS(ウッドベリー・コーヒー・ロースターズ 用賀本店)

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